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2011年5月 3日 (火)

ダダ詩「ノート1924」の世界<41-2>呪詛

「呪詛」に現れる「土橋」については
大岡昇平のよく知られた発言がありますから
この機会に
それを読んでおきましょう。

大岡昇平は
中原中也が書いた散文「分らないもの」に触れ、
その中の
「夏の昼」と題された断片的な詩篇

グランドに無造作につまれた材木
――小猫と土橋が話をしてゐた
黄色い圧力!

を案内する中で

「分らないもの」は大正十二年の夏、離郷後はじめて帰省した時の印象を描いた小説
風な断片である。「こんな好い詩を書く俺を落第生だとたゞ思つていやがる」という不
満が記されている。この断片は十二年末か十三年始めに書かれたらしいので、執筆
と同時に制作された可能性もあるが、作品そのものは短歌からダダ的短詩への移行
形態を示している。短歌を啄木流に分ち書きし、さらに音数律と通念を破壊したものと
見做すことが出来るのである。

と、「分からないもの」を概観し
「夏の昼」を読み解きます。
続けて

「小猫と土橋が話をしてゐた」の句が、土橋の上に猫がじっとしてる状景のいい替えで
あり、黄色い圧力を夏の日光の感覚的表現と見れば、これは一篇の叙景歌である。
「どばし」と「はなし」の押韻的効果が意識的なものであった可能性もある(「舟人の帆
を捲く」のような技法を彼は身につけていた)。

と、解説し
「土橋」については

 「土橋」は後々まで彼について廻った宿命的映像の一つである。「ノート1924」に
「土橋の上で胸打つた」という句が使われた詩が二篇あり、昭和八年頃に「この橋は
土橋か、木橋か、石橋か、/蹄の音に耳傾くる」という謎のような短歌がある。土橋と
は粗末な木造の橋の上に土を敷いて車輌を通すようにした橋で、石橋を都会的、木
橋を懐古的とすれば、実用的土俗的なイマージュである。
 (「中原中也」Ⅷ「中原中也・1」大岡昇平著、角川文庫)
 
と、突っ込んだ解釈を加えます。

以上は
中原中也が山口中学時代の短歌から
ダダ詩「ダダ音楽の歌詞」を作るようになった
経緯を辿る分析の一端なのですが
大岡は
両者を繋ぐ作品として
「分からないもの」に注目したものです。
そして

彼が山口中学時代、詩を書いていたという記憶が学友にあり、ほかの小説風の断片
にもそんな記載がある。しかしたとえいくつかの試作はあったとしても、彼が短歌定型
律を表現媒体に選んで迷わず、情操も技巧もその範囲で鍛えられていたことを、この
作品は示しているようである。(同書)

と結論しているのです。

もはや古典とさえなった
大岡昇平の発言に耳傾けながら
「呪詛」を読んでも
まだまだ理解が行き届かないのが
ダダの詩ですが

「土橋」は
詩人の作る詩の中に
繰り返し登場し
それが
短歌的定型表現であるなしに関係なく
土橋が
「粗末な木造の橋の上に土を敷いて車輌を通すようにした橋で」あり、
「実用的土俗的なイマージュである」とされる案内は
「呪詛」の読みのヒントになります。

「呪詛」と散文「分からないもの」の関係が断定できませんが
同じ頃の制作であれば
ますます
「呪詛」の内容は
生地・山口の湯田温泉の
事象・風景を歌っているに違いありません。

「分からないもの」には
親類の娘との失恋のことが書かれているようですから
「呪詛」に出てくる「女」である可能性は高く
ならば
この詩はもろに
その「女」のことを扱ったものということになります。

そうならばますます
最終行
砲弾は抛棄(ほうき)された

は、女性へもう一度モーションをかけるのを
思いとどまったことを示す
ダダ表現ということになります。

 *
 呪 詛

土橋の上で胸打つた
股(また)の下から右手みた
黒い着物と痩せた腕
縁側の板に尻つけて
障子に手を突つ込んで裏側からみてゐる
闇の中では鏡だけが舌を光らす
一切が悲哀だつたが恋だけがまだ残された
だが併(しか)し、女は遂に威厳に打たれることのないものでありました
砲弾は抛棄(ほうき)された

(角川ソフィア文庫「中原中也全詩集」より)

Senpuki04
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