「ノート1924」幻の処女詩集の世界<45>浮浪歌
「ノート1924」には
必ずしも1924年に作られた詩が記されているものではなく
「浮浪歌」以下7篇は
昭和2―3年(1927―28年)制作と推定されています。
理由は簡単で
「ノート1924」の使われていないページが
後になって使われたというだけの話です。
後に使われたのが
昭和2―3年で
この時詩人は
初めて詩集を作ろうと計画し
候補作の幾つかを
「ノート1924」に書き留めたのです。
その詩が
「浮浪歌」以下の7篇です。
1924年から
3、4年後の詩を
突然読むことになり
深呼吸する思いですが
富永太郎が京都を離れて後
中也と泰子は
どうしてしまったでしょうか
泰子が
中原中也の考えに
どれだけ影響力を持っていたかはよく分かりませんが
中也は富永太郎とまだ話し足りないと感じていて
東京行きの決意を固めたのは
富永を京都駅に見送った時であったに違いありません
富永太郎を追いかけるように
泰子を連れ立って上京した詩人が
東京市外戸塚源兵衛に下宿を借りるのは
1925年の3月でした
4月には
富永を通じて
小林秀雄を知り
5月には
小林の家の近くである高円寺に転居
11月には
泰子は小林との生活をはじめます
この月に、富永太郎は死去してしまいます。
1926年は
大正15年であり昭和元年である年ですが
2月には
「臘祭の夜の巷に堕ちて
心臓はも条網に絡み
脂ぎる胸乳も露は
よすがなきわれは戯女」
とはじまる「むなしさ」を書きます
孤独と絶望の底から
歌いはじめました。
4月、日本大学予科に入学し
フランス語を学びながら
「朝の歌」を作ったのは5月―8月でした。
泰子との別れの苦悩の中で
自分の詩世界を確立していったのです。
9月、親に無断で日大予科を退学。
しばらくして、アテネ・フランセへ通います
「臨終」もこの年のいつか作られました
11月には
「夭折した富永」を
富永、小林らが属していた同人誌「山繭」に発表しました
1927年は
春、河上徹太郎を知ったのを機に
諸井三郎を知り
「スルヤ」のメンバーとの交流がはじまりした
8月には
「富永太郎詩集」が私家版として発刊され
中也は自分の詩集発行のアイデアを得ます
9月には辻潤
10月には高橋新吉と
かねて計画していた
二人のダダイストへの訪問も果たしました
このような活動をする中で
第一詩集の構想は立てられ
候補作品の推敲・選定は進みました
その一部が
「ノート1924」にも
記されたのです。
(つづく)
*
浮浪歌
暗い山合、
簡単なことです、
つまり急いで帰れば
これから一時間といふものゝ後には
すきやきやつて湯にはいり
赤ン坊にはよだれかけ
それから床にはいれるのです
川は罪ないおはじき少女
なんのことかを知つてるが
こちらのつもりを知らないものとおんなじことに
後を見後を見かへりゆく
アストラカンの肩掛に
口角の出た叔父につれられ
そんなにいつてはいけませんいけません
あんなに空は額なもの
あなたははるかに葱(ねぎ)なもの
薄暗はやがて中枢なもの
それではずるいあきらめか
天才様のいふとほり
崖が声出す声を出す。
おもへば真面目不真面目の
けぢめ分たぬわれながら
こんなに暖い土色の
代証人の背(せな)の色
それ仕合せぞ偶然の、
されば最後に必然の
愛を受けたる御身(おみ)なるぞ
さつさと受けて、わすれつしやい、
この時ばかりは例外と
あんまり堅固な世間様
私は不思議でございます
そんなに商売といふものは
それはさういふもんですのが。
朝鮮料理屋がございます
目契ばかりで夜更まで
虹や夕陽のつもりでて、
あらゆる反動は傍径に入り
そこで英雄になれるもの
(角川ソフィア文庫「中原中也全詩集」より)
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