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2011年5月11日 (水)

「ノート1924」幻の処女詩集の世界<47>無題(あゝ雲はさかしらに)

「無題(あゝ雲はさかしらに)」は
清書稿であり
タイトルを付けられた
完成品です。

「むなしさ」「朝の歌」「臨終」を書いた詩人にしては
いかにも方向の定まっていない
色々な技が試みられている詩で
文語五七調を基調に
ルフランあり
ダダイスムあり
選ばれた言葉は
平明で
わかりやすいようで
わかりにくい
メリハリないものになりました

平明に歌おうとして
ダダから遠ざかろうとしたものの
最後に
ダダの尻尾を出してしまって
コントロールがきいていない世界。

何が歌われているかとなると
鮮明なイマージュが結ばずに
せっかくの文語体が
空回りして
ルフランも精彩がありません

主語は雲。
その雲はさかしらに(小賢しく)笑い
この農夫の愚かなこと
ちっちゃいちっちゃい
エゴイストだ
(などと嘲笑するので)
この農夫はためいきばかりついています
(農夫は詩人でしょうか)

そうはいっても結局は
この空の、胸の中は
農夫にも、
遠い家にも
誠意があります
実に誠意があるのです
(雲は空に浮いているのですから)

過ぎた日や
胸の疲れや
ビロードの少女をみないほうがよかったのに
(少女は)
腕を上げて、握ったものを
放すんだとさ、地平の裏に

心を込めて、このことをやり遂げ
あっちの、白虹(太陽の傘)から
(慎重に)道を選んで
それからよ
ゴミ箱の蓋(開けるのは)

昭和2―3年(1927―28年)に
計画された第一詩集の詩篇群は
1、 原稿用紙に清書されたもの
2、 長谷川泰子に宛てた「愛の詩」として清書されたもの
3、 清書されず、破棄するには愛着が残るものとして「ノート1924」の空きページに記されたもの

の3グループが推測されていて
「ノート1924」の7篇のほかにも
候補作品があったということです
(角川編集による)

「無題(あゝ雲はさかしらに)」は
破棄するには愛着が残る作品の一つになります

そういわれれば
捨てがたい魅力を放つ詩で
もう一つ
息を吹きかければ
見違える世界に化けそうな
不思議な詩です

雲と農夫とビロードの少女の物語――と
読めれば
不思議は不思議でなくなるのかもしれません。

もしや
ビロードの少女が
長谷川泰子であったらどうなっちゃうか
……

段々
あり得ないことではない
と、思えてきて
そうとなれば
目が覚めて
もう一度
冒頭行へ戻されていきます

やっぱり
やすやすとは捨てられない
不思議な魅力のある詩です。

 *
 無 題(あゝ雲はさかしらに)

あゝ雲はさかしらに笑ひ
さかしらに笑ひ
この農夫 愚かなること
小石々々
エゴイストなり
この農夫 ためいきつくこと

しかすがに 結局のとこ
この空は 胸なる空は
農夫にも 遠き家にも
誠意あり
誠意あるとよ

すぎし日や胸のつかれや
びろうどの少女みずもがな
腕をあげ 握りたるもの
放すとよ 地平のうらに

心籠め このこと果し
あなたより 白き虹より
道を選び道を選びて
それからよ芥箱(ごみばこ)の蓋

(角川ソフィア文庫「中原中也全詩集」より)
Senpuki04
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