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2011年5月30日 (月)

<再読>わが喫煙/タバコが目にしみる

「山羊の歌」の中の
「少年時」を読み直しています。
一度、読みましたが
読み足りなかった部分を
少しだけ補いました。

  ◇

これ以上
何を望んだのだろうか
何を求めたのだろうか
中原中也と長谷川泰子の
二人だけの時間が14行(=ソネット)に
濃密に刻まれました。

二人の距離は
もやは、ない、
といえるほどに近い
港町、横浜あたりへのデート。
幾分か、
誇らしげでもある
詩人の心根が見えます。

こんな時もあったのだ。
にも拘わらず
自分の女ではない
自分の伴侶ではない

いや、そういうことではありません。

自分の気持ちには応えていない女。
一緒に、デートを楽しんでいるけれど
自分を心底で好いてくれてはいない女。

いったん、ひびの入った心と体に
ふたたび電流が通うことはないであろうと
わかっていてもなすすべがない

憎い……

恋は
こうして
ますます
高じていきました。

「山羊の歌」は
「少年時」から後半に入りますが
「少年時」の2番目の
「盲目の秋」にはじまり
「羊の歌」の3篇を除く
「時こそ今は……」までの連続18篇が
「白痴群」に発表されました。

「少年時」9篇のうち8篇
「みちこ」5篇のすべて
「秋」5篇のすべて
合計18篇が
1929年(昭和4年)から1930年の
足掛け2年
中原中也が傾注した同人誌
「白痴群」に発表された作品なのです。

「わが喫煙」は
1930年4月発行の
「白痴群」第6号に掲載されました。
第6号で同誌は廃刊になりました。

 *

 わが喫煙

おまへのその、白い二本の脛(あし)が、
  夕暮、港の町の寒い夕暮、
によきによきと、ペエヴの上を歩むのだ。
  店々に灯がついて、灯がついて、
私がそれをみながら歩いてゐると、
  おまへが声をかけるのだ、
どつかにはひつて憩(やす)みませうよと。

そこで私は、橋や荷足(にたり)を見残しながら、
  レストオランに這入(はひ)るのだ――
わんわんいふ喧騒(どよもし)、むつとするスチーム、
  さても此処(ここ)は別世界。
そこで私は、時宜にも合はないおまへの陽気な顔を眺め、
  かなしく煙草を吹かすのだ、
一服、一服、吹かすのだ……

(角川ソフィア文庫「中原中也全詩集」より)

Senpuki04
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