「むなしさ」からはじまる<9>
「むなしさ」は当初
第2詩集「在りし日の歌」の冒頭詩篇でしたが
詩集編集の間に
長男の文也が急死したために
「含羞(はぢらひ)」に取って変えられました。
それまで
すなわち昭和11年(1936)11月10日に
文也が死ぬまでは
「むなしさ」が「在りし日の歌」の冒頭に置かれていたのですが
詩集編集は一時中断し
この中断の間には
詩人自身が千葉の中村古峡療養所へ
入退院するというハプニングもあって
再び開始されるのは
翌12年の夏になってからですから
再開されたこの詩集編集の時に
「含羞」を冒頭詩篇とする改編が行われたということが
角川新全集編集により考証されているのです。
こうして
「在りし日の歌」を
中原中也は「在りし日」に手に取ることもなく
文学仲間である小林秀雄に託してすぐに
他界してしまいます。
昭和12年10月22日のことです。
長男文也の死亡から
1年余の後のことでした。
このため、
「在りし日の歌」は「著者校正」が行なわれなかった
稀有な詩集ということにもなります。
*
むなしさ
臘祭(らふさい)の夜の 巷(ちまた)に堕(お)ちて
心臓はも 条網に絡(から)み
脂(あぶら)ぎる 胸乳(むなち)も露(あら)は
よすがなき われは戯女(たはれめ)
せつなきに 泣きも得せずて
この日頃 闇を孕(はら)めり
遐(とほ)き空 線条に鳴る
海峡岸 冬の暁風
白薔薇(しろばら)の 造花の花弁(くわべん)
凍(い)てつきて 心もあらず
明けき日の 乙女の集(つど)ひ
それらみな ふるのわが友
偏菱形(へんりようけい)=聚接面(しゆうせつめん)そも
胡弓の音 つづきてきこゆ
(角川ソフィア文庫「中原中也全詩集」より)
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