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2011年7月22日 (金)

ラフォルグ<13>でぶっちょの子供の歌へる・その2

中原中也の訳したラフォルグ3作のうち
「でぶっちょの子供の歌へる」を読んで
先に進むことにしましょう。
3作にざっと目を通して
この詩ばかりは
通り過ぎようにも通り過ぎることを許さないような
見て!見て! と中原中也が呼んでいるような
詩がしきりにアピールしているようで
立ち止まってしまいます。

原題にあるhypertrophiqueは
「心臓などの肥大した」とか「肥大性の」の意味で
直訳すれば
「心臓肥大症の子供の歌」となるのを
中原中也は「でぶっちょの」と意訳してみせましたから
太った子どもでも
元気のよいばかりではなく
心臓病をかかえて
生きていることを諦観している
シニカルな思いを抱く子の歌う歌として
読むとよいようです。

その子どもの母親もまた
心臓病で死んでしまったのです
医者がぼくにそう言ったんだ
――ティル ラン レール!
――かわいそうなママ

ぼくもあの世に行ってしまおうっと
そしてママと一緒にねんねするんだ
ホラ、ね、ぼくの心臓鳴ってる
きっと、ママが呼んでるのさ

こんなふうに感じる子は
通りで、みんなの笑いもの
おかしい、変だって
――ラ イ トウ!
――知るもんか、そんなの

でも、いわれてみりゃそうなんだ
一足歩くたびに
息切れするし、足はよろよろ
ホラ、ね、ぼくの心臓鳴ってる
きっと、ママが呼んでるのさ

それだから原っぱにぼくは行くんだ
夕陽を見ると泣けてくるからね
――ラ リ レット!
――泣けるんだ、目一杯

よく知らないけれど
夕陽ってのは
心臓を流れる血みたいでしょ
ホラ、ね、ぼくの心臓鳴ってる
きっと、ママが呼んでるのさ

もしも大好きなジュヌヴィエーヴが
ぼくの心臓を頂戴っていったら
――ピ ル イ!
――あいよ、だよ

ぼくは黄色、悲しみの色
彼女はバラ色、おまけに陽気
ホラ、ね、ぼくの心臓鳴ってる
きっと、ママが呼んでるのさ

だいたいみんな意地悪ばっかり
夕陽を除いて意地悪だらけだ

夕陽とママと
そしてぼくも
あの世に行ってしまおう
ママとねんねするんだ
ホラ、ね、ぼくの心臓鳴ってる
ね、ママ、ぼくを呼んでるんでしょう?

ダダイズムの詩「春の日の夕暮」に
物語を加えたら
こんな詩が生まれそうな
まったく無縁のはずのシーンが
重なってきませんか?

いや
俺には
ホラホラ、これが僕の骨だ、という詩に
繋がっていく
……
なんて
とんでもない方向に
広がっていくのは
読みが浅いというほかに
言い様がないようで……。

 *

でぶっちょの子供の歌へる

          ジュウル・ラフォルグ

お亡くなりになつたのは
心臓病でです、お医者は僕にさう云つたけが、
   ティル ラン レール!
   気の毒なママ。
僕もあの世に行つてしまはう、
ママと一緒にねんねをするんだ。
ホラ、ね、鳴つてら、僕の心臓、
きつとだ、ママが呼んでゐるんだ!

往来で、みんなは僕を嗤(わら)ふんだ、
僕の様子が可笑しんだつて
   ラ イ トウ!
   知るもんか。
あゝ! でも一歩(ひとあし)あるくたんびに
息は切れるし、よろよろもする!
ホラ、ね、鳴つてら、僕の心臓、
きつとだ、ママが呼んでゐるんだ!

それで野原に僕は行くんだ
夕陽が見えると泣けて来るんだ 
   ラ リ レット!
   泣けてくるんだ。
よく知らないけど、だつて夕陽は
流れる心臓みたいぢやないか!
ホラ、ね、鳴つてら、僕の心臓、
きつとだ、ママが呼んでゐるんだ!

あゝ! もし可愛いいジュヌヴィエーヴが
この心臓をお呉れといつたら、
   ピ ル イ!
   あいよだ!
僕は黄色で悲しげなんだ!
彼女は薔薇色、おまけに陽気さ!
ホラ、ね、鳴つてら、僕の心臓、
きつとだ、ママが呼んでゐるんだ!

だいたいみんなが意地悪過ぎらあ、
夕陽を除(ど)けたらみんな意地悪だ、
   ティル ラン レール!
夕陽とママと、
僕もあの世に行つてしまはう
ママと一緒にねんねをするんだ……
ホラ、ね、ホラ、ホラ、僕の心臓……
ね、ママ、僕を呼んでるのでせう?

(「中原中也全訳詩集」講談社文芸文庫より)

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