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2011年11月28日 (月)

中原中也が訳したランボー「わが放浪」Ma Bohèmeのこだわり

中原中也訳の「わが放浪」Ma Bohèmeは
「ランボオ詩抄」(昭和11年6月発行)の印刷用原稿が残っており
これが第1次形態①とされ
「ランボオ詩抄」として印刷発行された詩篇が
第1次形態②とされ
「ランボオ詩集」(昭和12年9月発行)掲載の詩篇が
第2次形態とされ
それぞれ若干の異同があります。
(新編中原中也全集 第3巻 翻訳)

目立った異同は
第8行で

第1次形態①は
やさしくさゝやきさゝめいてゐた。

第1次形態②は
やさしくささやきささめいてゐた。

第2次形態は
やさしくささやきささやいてゐた。

――と改変されたところですが
この改変は、いずれも微妙な変更でしたが
この微妙な変更に精力を注いだところが
いかにも中原中也と言えましょうか。

やさしくさゝやきさゝめいてゐた。

やさしくささやきささめいてゐた。
としたのは、
繰り返し符号「ゝ」2箇所を排して
「ささやき」「ささめく」という動詞のイメージを明確にしようとしたものでしょうか

それでも飽き足らず
「ささめく」という動詞を排して
ささやきささやいていた
と、「ささやく」という動詞一本に絞りました。
結局は、リフレインを選んだところに
中原中也のこだわりが感じられます。

リフレインばかりでなく
「や」「さ」という音感
ヤ行とサ行の共鳴感
「ささめく」ではなく「ささやく」という語の響きを取った
詩人の音へのこだわりがここにあるということもできましょう。

さらに言えば
原詩
Mes étoiles au ciel avaient un doux frou-frou.に
忠実であろうとした翻訳へのこだわりを
ここに見ることもできることでしょう。
frou-frouとあるルフランとオノマトペを訳してみせてくれたのです!

参考のために
第7、8行を他の訳で見ておきます。

三富朽葉訳
私の宿は大熊星に在つた。
わが空の星むらは優しいそよぎを渡らせた、

大木篤夫訳
俺の宿は大熊星座のなかにある、
俺の星々は高い空から珊々(さんさん)と鳴る、

西条八十訳
ぼくの宿は大熊星座に在った。
――大空の星の中に優しい衣(きぬ)ずれの音がきこえた。

金子光晴訳
僕の旅籠(はたご)は、大熊星座。
空では星どもが、さらさらとやさしい衣(きぬ)ずれの音をさせた。

 *

 わが放浪

私は出掛けた、手をポケットに突つ込んで。
半外套は申し分なし。
私は歩いた、夜天の下を、ミューズよ、私は忠僕でした。
さても私の夢みた愛の、なんと壮観だつたこと!

独特の、わがズボンには穴が開(あ)いてた。
小さな夢想家・わたくしは、道中韻をば捻つてた。
わが宿は、大熊星座。大熊星座の星々は、
やさしくささやきささやいてゐた。

そのささやきを路傍(みちばた)に、腰を下ろして聴いてゐた
あゝかの九月の宵々よ、酒かとばかり
額(ひたひ)には、露の滴(しづく)を感じてた。

幻想的な物影の、中で韻をば踏んでゐた、
擦り剥けた、私の靴のゴム紐を、足を胸まで突き上げて、
竪琴みたいに弾きながら。

(角川書店「新編中原中也全集 第3巻 翻訳」より)
※ルビは原作にあるもののみを( )の中に入れました。編者。
※講談社文芸文庫「中原中也全訳詩集」では、第8行を「やさしくささやきささめいてゐた。」としてあります。編者。

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