中原中也が訳したランボー「わが放浪」付録篇・西条八十の分類
西条八十の「アルチュール・ランボオ研究」は
中で「『初期詩篇』の総瞰」の章を設け
ランボーの初期詩篇を6分類しているのですが
ランボー理解の手助けになりそうなので
ここでそれをひもといておきましょう。
「まず第一に反キリスト教の思想がある。」
――として挙げられるのは
「タルチュフの懲罰」
「悪」
「教会に集る貧乏人」などです。
「第二は、進んで、おのれがキリスト教徒であることへの反逆――洗礼の拒否である。」
――ここには
「最初の聖体拝受」
「太陽と肉体」
「正義の人」などが入りますが
このグループの中の
「鍛冶屋」
「音楽につれて」
「七歳の詩人たち」
「九二年と九三年の戦死者たちよ」
「皇帝たちの怒り」
「ザールブリュックの大勝利」は
現存の社会への憎悪・反感。
さらに
「パリの軍歌」
「パリは再び大賑い」
「ジャンヌ・マリイの手」
「おれの心よ、いったいなんだ……」の4篇は
ランボーのパリ・コンミューンへの熱狂的同情を詠った詩群とされています。
「第一、第二に続く、第三のモチーフとしては恋愛詩だが、異様なことに、この詩人にはどの詩人の場合にも在るように、ダンテがベアトリーチェを詠ったような清純な恋愛詩はまったくない。あまりにも、肉感的な作品ばかりである。」
――として挙げられるのは
「七歳の詩人たち」
「音楽につれて」
「最初の宵」
「みどり亭にて」
「いたずら好きな女」
「ニナの返答」
「小説」
「冬を夢みて」
「水から出るヴィーナス」
「慈善看護尼」などです。
「第四の詩群としては、この詩人の<醜悪なるもの、汚穢なるものへの特別な関心>が挙げられる。」
――として、
「水から出るヴィーナス」
「タルチュフの懲罰」
「七歳の詩人たち」
「最初の聖体拝受」
「ニナの返答」
「夕べの祈り」
「酔いどれ船」
「盗まれた心臓」
「しゃがみこんで」
「坐っている奴ら」
「首吊人の舞踏会」
「虱を探す女たち」。
「第五に挙げたいのは、彼の「わが漂泊」や「感覚」などに見る<自然への親愛>の詩群である。」
――として、
「感覚」
「太陽と肉体」
「オフェリア」
「わが漂泊」。
「最後に、第六のモチーフとしてわたしが特に挙げたいのは<幻覚>のモチーフとでも呼ぼうか、およそランボオの一切のものに対する感じ方、描き方が、幻覚的であり、幻想的である、その詩群である。この特質は他のどの詩群よりもひろく、ほとんど彼の作品全体を蔽っている。」
――として、
「感覚」
「わが漂泊」
「鍛冶屋」
「太陽と肉体」
「オフェリア」
「首吊人の舞踏会」
「盗まれた心臓」
「しゃがみこんで」
「坐っている奴ら」
「税関吏たち」
「冬に夢みて」
「夕べの祈り」
「最初の宵」
「最初の聖体拝受」
「正義の人」などを挙げています。
(※タイトルは西条八十の翻訳ですから、当然、中原中也訳と異なります。編者。)
以上を要約すれば、
ランボーの初期詩篇は、
1、反キリスト教
2、自らがキリスト者になることへの反逆・拒否
3、恋愛詩
4、醜悪・汚穢への特別な関心
5、自然への親愛
6、幻覚
――に分類・整理できるということですが
ご覧のように、各個の詩は
複数の詩群にまたがって分類されています。
西条八十独自の分類ですが
ランボー初期の作品を概観できて
いつか役に立つはずのものです。
*
わが放浪
私は出掛けた、手をポケットに突つ込んで。
半外套は申し分なし。
私は歩いた、夜天の下を、ミューズよ、私は忠僕でした。
さても私の夢みた愛の、なんと壮観だつたこと!
独特の、わがズボンには穴が開(あ)いてた。
小さな夢想家・わたくしは、道中韻をば捻つてた。
わが宿は、大熊星座。大熊星座の星々は、
やさしくささやきささやいてゐた。
そのささやきを路傍(みちばた)に、腰を下ろして聴いてゐた
あゝかの九月の宵々よ、酒かとばかり
額(ひたひ)には、露の滴(しづく)を感じてた。
幻想的な物影の、中で韻をば踏んでゐた、
擦り剥けた、私の靴のゴム紐を、足を胸まで突き上げて、
竪琴みたいに弾きながら。
※講談社文芸文庫「中原中也全訳詩集」では、第8行を「やさしくささやきささめいて
ゐた。」としてあるため、今回は、角川書店「新編中原中也全集 第3巻 翻訳」より引
用しました。編者。
※ルビは原作にあるもののみを( )の中に入れました。編者。
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