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2011年11月 8日 (火)

中原中也が訳したランボー「フォーヌの頭」と金子光晴の訳

「フォーヌの頭」Tête de Fauneは
中原中也訳「ランボオ詩集」「初期詩篇」の2番目に置かれていますが
金子光晴は「初期韻文詩」24番目に
「牧神の頭」と題して訳出しています。

金子光晴自身は明らかにしていないのですが
「ランボー全集 全一巻」(雪華社、1984年)の
共著者、斉藤正三や中村徳泰があとがきに
この全集の原典を
主としてプレイヤード版とし
ガルニエ版やメルキュール版をも参照していることを明かしていますから
中原中也が原典としたメルキュール版とは
構成や分類が異なり
そのために「牧神の頭」は
「初期韻文詩」の24番目に配置されるのです。

参考のために
ここでも
金子光晴の訳を見ておきますが
制作年(翻訳した年)は不明です。

金子光晴は1975年に亡くなり
1984年発行の雪華社版「ランボー全集」は
没後編集であることとも関係があるのか
制作年など出自の詳細を明らかにしていません。

あとがきに
金子光晴自身が
「ランボー――人と作品」と
「初期韻文詩」「後期韻文詩」「忍耐の祭り」について、という
二つの解説を著わしているのですが
「牧神の頭」に関する言及はありません。

金子光晴の原作を
意訳を少し加えて読んでみます……

 ◇

緑に金を撒きこぼした宝石箱、
繁みの葉陰から
接吻して眠るのによい場所、
花々をいっぱいつけて
揺れたまま動きをやめない繁みの葉陰から、
眼にも鮮やかな刺繍を、一瞬のうちに引き裂いて
とまどうそぶりのフォーンの頭がぬっと現われ、
二つの眼をキョロキョロ動かして
まっ赤な花を手あたり次第、
白い歯で噛み割いた。
みか酒の血かなにかで塗られたように
鳶色に輝くその唇が、入り組んだ枝の下で
カラカラと笑った。

それから、リスのすばやさで身を隠したが
笑いは、葉の一枚一枚に残って、震えていた。
飛び立つ鷽(うそ)に一瞬おどろかされたが、
金の接吻の森は
しばらく、深い物思いに沈んでいた。

 ◇

ここには
口語体の翻訳であること以外に
淡々として
力みのない声調があるばかりのようです。

文語体の格調を捨てた代わりに
さらりとしていて
一筆描きの淡白さに味があります

少なくとも、この詩に関しての
中原中也と金子光晴との温度差は
はっきりとしているようです。

 *
 
 二十四、牧神の頭
      金子光晴訳

緑に金(きん)をまきこぼした宝石筺(ばこ)、
しげみの葉蔭(はかげ)から、
接吻(くちづけ)けて眠るによい場所、
花々をいっぱいつけて、揺れてさだめないしげみの葉蔭から、
目もあやなそのぬいとりを、たちまち引き裂いて、
とまどった牧神(フォーン)のあたまがぬっと現われ、
双(ふた)つの眼をきょろつかせ、
まっ赤な花を手あたりしだい、白い歯牙(しが)にかけて噛(か)みさいた。
甕酒(みかざけ)の血でもぬられたように、
鳶いろに輝くその唇が、さしかわす枝枝のしたで、
からからとわらった。

それから、栗鼠(りす)のすばやさで身をかくしたが、
笑いは、葉の一枚ずつにのこって、おののいていた。
飛び立つ鴬(うそ)におどろかされたあとで、
金の接吻の森は、しばしは、ふかいものおもいにとらわれていた。

(雪華社「ランボー全集 全一巻」より)

 *

 フォーヌの頭
 中原中也訳

緑金に光る葉繁みの中に、
接唇(くちづけ)が眠る大きい花咲く
けぶるがやうな葉繁みの中に
活々として、佳き刺繍(ぬひとり)をだいなしにして

ふらふらフォーヌが二つの目を出し
その皓い歯で真紅(まつか)な花を咬んでゐる。
古酒と血に染み、朱(あけ)に浸され、
その唇は笑ひに開く、枝々の下。

と、逃げ隠れた――まるで栗鼠、――
彼の笑ひはまだ葉に揺らぎ
鷽のゐて、沈思の森の金の接唇(くちづけ)
掻きさやがすを、われは見る。

(講談社文芸文庫「中原中也全訳詩集」より)
※ルビは原作にあるもののみを( )の中に入れました。編者。

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