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2011年11月 9日 (水)

中原中也が訳したランボー「フォーヌの頭」Tête de Faune・その3

「フォーヌの頭」Tête de Fauneについては
原典の、やや錯綜した事情を
知っておくと理解が深まります。

「フォーヌの頭」Tête de Fauneの
ランボー自筆の原稿は存在しない、
というところからこの事情を見ていかなければなりません。

ランボーの自筆原稿がなくても
かつてそれを読んだポール・ベルレーヌが筆写した原稿があったために
その筆写原稿が世に出るという奇跡が起こったのです。

そもそも
アルチュール・ランボーの存在が世の中に知らされたのは
ポール・ベルレーヌが
1884年にヴァニエ書店から発行した
詩人論「呪われた詩人たち」の中のことでした。
この時は
トリスタン・コルビエール
ステファヌ・マラルメ
アルチュール・ランボーの3人が扱われましたが
その後、1888年に増補改訂版を同書店から発行し
デボルト=ヴァルモール
オーギュスト・リラダン
「ポーヴル・レリアン」ことポール・ヴェルレーヌが追加されました。

1884年から1888年のころ、
ランボー本人は
文学から遠ざかり
アフリカのアビシニア(エチオピア)のハラルや
アラビア半島突端の町アデンなどで
商業ビジネスに従事していました。

「呪われた詩人たち」の中の
ポーブル・レリアンPauvre Lelianとは
ポール・ヴェルレーヌPaul Verlaineの綴り(スペル)を入れ替えた
アナグラムという遊び(一種の修辞=レトリック)で
ベルレーヌの偽名として使われています。
「呪われた詩人たち」の一人に
ベルレーヌ自身を挙げるために
アナグラムで偽名を使ったのです。

この「ポーブル・レリアン」の中に
ベルレーヌは
ランボーの詩を2篇引用しました。
その一つが「盗まれた心」
もう一つが「フォーヌの顔」でした。

中原中也も
増補改訂版の「呪われた詩人たち」を採用している
メッサン版「ヴェルレーヌ全集」を原典にして
「ポーブル・レリアン」を翻訳しましたから
「フォーヌの顔」と巡り合いました。

「フォーヌの頭」は
「ポーブル・レリアン」に引用されたもののほかに
ベルレーヌが筆写した原稿が残っていて
二つのバリアントが存在しますが
中原中也はこのどちらをも参照し
「両者を混合させて独自の訳稿を作り上げた」(新全集・解題篇)ことが
分かっています。

このことをみても
中原中也の「フォーヌの頭」に示す
並々ならぬ熱意が想像できます。
「白痴群」
「紀元」
「椎の木」
「ランボオ詩抄」
「ランボオ詩集」と
5回も異なる媒体に発表したことともあわせ
この熱意がどこから生じているか
大いに興味が湧くところです。

「酔ひどれ船」や
「少年時」を読んだ時の熱は
いまだ冷めやらないどころか
「フォーヌの頭」のような
珠玉の作品に巡りあっては
ますます深い森に分け入って行ったに違いない
詩人の興奮が見えるようです。

 *

 フォーヌの頭
 
緑金に光る葉繁みの中に、
接唇(くちづけ)が眠る大きい花咲く
けぶるがやうな葉繁みの中に
活々として、佳き刺繍(ぬひとり)をだいなしにして

ふらふらフォーヌが二つの目を出し
その皓い歯で真紅(まつか)な花を咬んでゐる。
古酒と血に染み、朱(あけ)に浸され、
その唇は笑ひに開く、枝々の下。

と、逃げ隠れた――まるで栗鼠、――
彼の笑ひはまだ葉に揺らぎ
鷽のゐて、沈思の森の金の接唇(くちづけ)
掻きさやがすを、われは見る。

(講談社文芸文庫「中原中也全訳詩集」より)
※ルビは原作にあるもののみを( )の中に入れました。編者。

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