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2011年12月 6日 (火)

中原中也が訳したランボー「蹲踞」Accroupissementsその2

中原中也訳の「蹲踞」Accroupissementsを
ひきつづき読みます。

 ◇
でぶっちょの聖職者カロチュスが
しゃがんで
なんとも不様な姿をさらしているのがみえてきますが
ランボーの「描写」は容赦がありません――。

 ◇

お人よしの彼氏はトロトロ燃える暖炉にあたる。腕を組み合わせ、下唇を
だらりと垂らし。彼氏、今にも火の中に滑り込みそうになるほど火に近づき
ズボンを焦がしてしまうので、パイプの火が消えそうになるのに気づくのだ。
何か小鳥のようなものが、少し動く
そのうららかな太鼓腹の上で、ちょいと臓物のよう。

あたりでは、使い古した家具などが静かに息をひそめている。
垢にまみれたボロの中に、汚れた壁の前に
壁掛けや奇妙な格好した寝椅子などが、暗い四隅に
蹲っている。食器戸棚は強欲に
満ちた眠気をのぞかせる歌手たちの口つきだ。

いやな熱気が狭苦しい部屋に立ち込めている。
お人よしの彼氏の頭の中は、ボロ布で一杯
剛毛は湿った皮膚の中に、突っ張っていて
しばらくすれば、猛然と馬鹿みたいなくしゃみするので
ガタガタの彼氏の寝椅子は揺れるのです……

 ◇

時おり、得体の知れないモノが登場しますが
それは読み手の想像力に任せておくほうが
この詩にかぎらずよい結果になることでしょう

あいまいなモノではありません
合理的で必然的なモノばかりです
ランボーはリアリストであり
シュールレアリストです

 ◇

その宵のこと、彼氏のお尻のまわりには、月光が
光でできた鋳物の継ぎ目をつくる時、よく見れば
入り組んだ影こそしゃがんだ彼氏で、バラ色の
雪を借景にして、タチアオイかと……
なんとも面白いことに、空の奥まで、ビーナスを追っかける表情してる。

 ◇

「それでは、敬虔な歌を一つお目にかけて、しめくくることにしましょう」と
ランボーがドメニーへの書簡の中に記した
「敬虔な歌」が以上です。

聖職者カロチュスのある冬の夜のプライバシーを暴き出し
同情の一抹も見せずに描く手元に迷いはなく
一枚の製図を仕上げる確かさがあります。

中原中也の訳も
そのあたりを上手にすくっていて
淡々としています。

(「新編中原中也全集・第3巻 翻訳・解題篇」より)

 *

 蹲踞

やがてして、兄貴カロチュス、胃に不愉快を覚ゆるに、
軒窗に一眼(いちがん)ありて其れよりぞ
磨かれし大鍋ごとき陽の光
偏頭痛さへ惹起(ひきおこ)し、眼(まなこ)どろんとさせるにぞ、
そのでぶでぶのお腹(なか)をば布団の中にと運びます。

ごそごそと、灰色の布団の中で大騒ぎ、
獲物(えもの)啖つたる年寄さながら驚いて、
ぼてぼての腹に膝をば当てまする。
なぜかなら、拳(こぶし)を壺の柄と枉げて、
肌着をばたつぷり腰までまくるため!

ところで彼氏蹲(しやが)みます、寒がつて、足の指をば
ちぢかめて、麺麭の黄を薄い硝子に被(き)せかける
明るい日向にかぢかむで。
扨お人好し氏の鼻こそは仮漆(ラツク)と光り、
肉出来の珊瑚樹かとも、射し入る陽光(ひかり)を厭ひます。

     ★

お人好し氏は漫火(とろび)にあたる。腕拱み合せ、下唇を
だらりと垂らし。彼氏今にも火中に滑り、
ズボンを焦し、パイプは消ゆると感ずなり。
何か小鳥のやうなるものは、少しく動く
そのうららかなお腹(なか)でもつて、ちよいと臓物みたいなふうに!

四辺(あたり)では、使ひ古るした家具等の睡り。
垢じみた襤褸(ぼろ)の中にて、穢(けが)らはし壁の前にて、
腰掛や奇妙な寝椅子等、暗い四隅(よすみ)に
蹲まる。食器戸棚はあくどい慾に
満ちた睡気をのぞかせる歌手(うたひて)達の口を有つ

いやな熱気は手狭(てぜま)な部屋を立ち罩(こ)める。
お人好し氏の頭の中は、襤褸布(ぼろきれ)で一杯で、
硬毛(こはげ)は湿つた皮膚の中にて、突つ張るやうで、
時あつて、猛烈可笑しい嚏も出れば、
がたがたの彼氏の寝椅子はゆれまする……

     ★

その宵、彼氏のお臀(しり)のまはりに、月光が
光で出来た鋳物の接合線(つぎめ)を作る時、よく見れば
入り組んだ影こそ蹲(しやが)んだ彼氏にて、薔薇色の
雪の配景のその前に、たち葵かと……
面白や、空の奥まで、面(つら)はヴィーナス追つかける。

(角川書店「新編中原中也全集 第3巻 翻訳」より)
※ルビは原作にあるもののみを( )の中に入れました。編者。

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