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2011年12月12日 (月)

中原中也が訳したランボー「坐つた奴等」Les Assis・その3

「老爺=ぢぢい」が一体化した椅子は
「老爺=ぢぢい」にすこぶる親切で
褐色に燻されたような年季ものの藁は
「老爺=ぢぢい」が座った跡をとどめ
お尻の形にへこんでいるのです。
それをかつて照らした陽光は
とんがった穀物、麦の粒をぎっしり詰め込んだ藁の中に
くるまりこんで、今でも、ぬくもりを保っているのでございます。

さて奴等、「老爺=ぢぢい」たち、膝を立てて、
今度は元気盛んなピアニスト?
10本の指で、椅子の下を、パタリパタリと弾いてみれば
悲しい舟歌ひたひたと、聞えてくるような思いがします
それにつれ奴等のおつむは、右に揺れ左に揺れて恋々とする

そうであるからには、奴等を起こそうとは思いなさるな
そんなことしたら、横面引っ叩かれたネコのように、ギャーと唸り
湧き上がり、肩怒らせて、おそろしや
彼等のはいてるズボンまでもが、ムクムクムリムリ膨らんじゃいます

さて彼等、禿げ頭を壁に向け
ゴツンゴツンぶつけているのが聞えます、曲がった足を踏ん張って
彼等の服のボタンが、鹿の子色の瞳になって
それが廊下のどんづまりみたいな眼つきで、眺めます

 ◇

意味が通り難いものと思いきや
中原中也の訳は
若干の想像力で補えば
逐語訳を大幅に逸脱することなく
独自の詩的言語によって選び抜かれているのが分かります

 ◇

彼等にはまた人を殺す、見えないお手手がありまして
引っ込めがてに彼等の眼、打たれた犬は痛々しい眼つきを
思わせるドス黒い、悪意を滲み出させるのです
諸君はゾーッとするでしょう、恐ろしい漏斗(ジョーゴ)の穴に吸い込まれたかと。

ふたたび坐るかと見るや、汚いカフスに半ば隠した拳固を握り
起たそうとした人のことを、とっくりと思いめぐらします。
すると、貧しげに細った顎の下が、夕映え色、扁桃腺の色をみせて
グルリグルリと、今にもはち切れそうに動くのです。

 ◇

描写は、限りなく続きます。
エンドレス・テープのようです。
始まりが始まりですから
終わりが終わらない
物語なき物語。
これは
物語というよりは詩なのですから
もはや物語を期待する眼差しは打っちゃられます。

 ◇

しばらくして、強烈な眠気がやってきて、「老爺=ぢぢい」たちをこっくりこっくりさせる時
腕を枕に、彼等は夢みます、結構な椅子のことを。
本当に可愛いと愛情を抱いて、お役所の立派な部屋に
ズラリと並んだ房飾りの垂れ下がる椅子のことを思うのです。

インキの泡の跳ね返しの跡、コンマの形の花粉などは
水仙アヤメのラインに似た、トンボの飛行のようであり
彼等のヘソの周りにいて、彼等をあやしては眠らせます
――さて彼等、腕をモジモジさせるんです。髪の毛がチクチクするんです。

 ◇

日本的起承転結を思い描けば
それは丸ごと飲み込まれる
ディアレクチケーの渦流 ――。

「老爺=ぢぢい」に肉体化された身体が
彼らが坐っている椅子に
接木(せつぼく)してしまうというメタファーの謎だけが
鮮烈に刻まれます。

 ◇

敢えて言えば
丁度、朝日新聞12月11日付けの読書面「読みたい古典」欄で紹介されているような
ガルガンチュアとパンタグリュエル第1巻第13章の「壮絶な糞尿譚」――
「もっとも素敵な尻の拭き方」に近い流れにある
「譚詩」のつもりであるかもしれません。

 *

 坐つた奴等

肉瘤(こぶ)で黒くて痘瘡(あばた)あり、緑(あを)い指環を嵌めたよなその眼(まなこ)、
すくむだ指は腰骨のあたりにしよむぼりちぢかむで、
古壁に、漲る瘡蓋(かさぶた)模様のやうに、前頭部には、
ぼんやりとした、気六ヶ敷さを貼り付けて。

恐ろしく夢中な恋のその時に、彼等は可笑しな体躯(からだ)をば、
彼等の椅子の、黒い大きい骨組に接木(つぎき)したのでありました。
枉がつた木杭さながらの彼等の足は、夜(よる)となく
昼となく組み合はされてはをりまする!

これら老爺(ぢぢい)は何時もかも、椅子に腰掛け編物し、
強い日射しがチクチクと皮膚を刺すのを感じます、
そんな時、雪が硝子にしぼむよな、彼等のお眼(めめ)は
蟇(ひきがへる)の、いたはし顫動(ふるへ)にふるひます。

さてその椅子は、彼等に甚だ親切で、褐(かち)に燻(いぶ)され、
詰藁は、彼等のお尻の形(かた)なりになつてゐるのでございます。
甞て照らせし日輪は、甞ての日、その尖に穀粒さやぎし詰藁の
中にくるまり今も猶、燃(とも)つてゐるのでございます。

さて奴等、膝を立て、元気盛んなピアニスト?
十(じふ)の指(および)は椅子の下、ぱたりぱたりと弾(たた)きますれば、
かなし船唄ひたひたと、聞こえ来るよな思ひにて、
さてこそ奴等の頭(おつむり)は、恋々として横に揺れ。

さればこそ、奴等をば、起(た)たさうなぞとは思ひめさるな……
それこそは、横面(よこづら)はられた猫のやう、唸りを発し、湧き上り、
おもむろに、肩をばいからせ、おそろしや、
彼等の穿けるズボンさへ、むツくむツくとふくれます。

さて彼等、禿げた頭を壁に向け、
打衝(ぶちあ)てるのが聞こえます、枉がつた足をふんばつて
彼等の服の釦こそ、鹿ノ子の色の瞳にて
それは廊下のどんづまり、みたいな眼付で睨めます。

彼等にはまた人殺す、見えないお手(てて)がありまして、
引つ込めがてには彼等の眼(め)、打たれた犬のいたいたし
眼付を想はすどす黒い、悪意を滲(にじ)み出させます。
諸君はゾツとするでせう、恐ろし漏斗に吸込まれたかと。

再び坐れば、汚ないカフスに半ば隠れた拳固(げんこ)して、
起(た)たさうとした人のこと、とつくり思ひめぐらします。
と、貧しげな顎の下、夕映(ゆふばえ)や、扁桃腺の色をして、
ぐるりぐるりと、ハチきれさうにうごきます。

やがてして、ひどい睡気が、彼等をこつくりさせる時、
腕敷いて、彼等は夢みる、結構な椅子のこと。
ほんに可愛いい愛情もつて、お役所の立派な室(へや)に、
ずらり並んだ房の下がつた椅子のこと。

インキの泡がはねツかす、句点(コンマ)の形の花粉等は、
水仙菖の線真似る、蜻蛉(とんぼ)の飛行の如くにも
彼等のお臍のまはりにて、彼等をあやし眠らする。
――さて彼等、腕をもじもじさせまする。髭がチクチクするのです。

(角川書店「新編中原中也全集 第3巻 翻訳」より)
※「むツくむツく」「もじもじ」は、原作では繰り返し記号「/\」が使われています。
※ルビは原作にあるもののみを( )の中に入れました。編者。

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