新春に読んでおきたい中原中也の詩・その24「ひからびた心」
ひからびた心
ひからびたおれの心は
そこに小鳥がきて啼き
其処(そこ)に小鳥が巣を作り
卵を生むに適してゐた
ひからびたおれの心は
小さなものの心の動きと
握ればつぶれてしまひさうなものの動きを
掌(てのひら)に感じてゐる必要があつた
ひからびたおれの心は
贅沢(ぜいたく)にもそのやうなものを要求し
贅沢にもそのやうなものを所持したために
小さきものにはまことすまないと思ふのであつた
ひからびたおれの心は
それゆゑに何はさて謙譲であり
小さきものをいとほしみいとほしみ
むしろその暴戻(ぼうれい)を快いこととするのであつた
そして私はえたいの知れない悲しみの日を味つたのだが
小さきものはやがて大きくなり
自分の幼時を忘れてしまひ
大きなものは次第に老いて
やがて死にゆくものであるから
季節は移りかはりゆくから
ひからびたおれの心は
ひからびた上にもひからびていつて
ひからびてひからびてひからびてひからびて
――いつそ干割(ひわ)れてしまへたら
無の中へ飛び行つて
そこで案外安楽に暮せらるのかも知れぬと思つた
(角川ソフィア文庫「中原中也全詩集」より)
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