新春に読んでおきたい中原中也の詩・その4「春と恋人 」
春と恋人
美しい扉の親しさに
私が室(へや)で遊んでゐる時、
私にかまはず実つてた
新しい桃があつたのだ……
街の中から見える丘、
丘に建つてたオベリスク、
春には私に桂水くれた
丘に建つてたオベリスク……
蜆(しじみ)や鰯(いわし)を商ふ路次の
びしょ濡れの土が歌つてゐる時、
かの女は何処(どこ)かで笑つてゐたのだ
港の春の朝の空で
私がかの女の肩を揺つたら、
真鍮(しんちゅう)の、盥(たらひ)のやうであつたのだ……
以来私は木綿の夜曲?
はでな処(とこ)には行きたかない……
(角川ソフィア文庫「中原中也全詩集」より)
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