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中原中也を歌う(曲と歌:桜木うさこさん)

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2012年2月19日 (日)

中原中也が訳したランボー「最初の聖体拝受」Les Premières Communions

「最初の聖体拝受」Les Premières Communionsは
9節30連で構成される
長い詩です。
第1節が、1連が6行で7連、
第2節が、1連6行で1連、
第3節以下第9節までが、1連4行で22連あります。
原詩も同様の構成です。

ランボーは、1866年の復活祭に
最初の聖体拝受を行いましたが
兄フレデリックとともに正装したその時の写真が残っていて
書物などで見ることができます。

まさにその時のことを歌ったのが
「最初の聖体拝受」Les Premières Communionsということになりそうですが
それでは
この詩は事実の記録ということになってしまい
そうでないことは
冒頭行からも明らかです。

そりゃあもう愚劣極まりないものさ、村の教会などというものは
そこにおかしな村のガキどもが14、5人、柱に自分の体の垢をこすりつけながら
神聖なお説教がぽつりぽつりと話されるのを聞いている
ほんとに奇妙な黒染めの服を着て、その下に隠れた足で靴をゴソゴソと鳴らしている。
ああ、それなのに、太陽は木々の葉の向うで輝いている、
ふぞろいなステンドグラスの古ぼけた色を透かして輝いている。

石はいつでも母なる大地を呼吸している。
さかりがついて、荘重に身震いしている野原には
泥にまみれた小石の山などが見られるもので
重ったるい麦畑の近く、赤土の小道には
焼きの回った小さな木々が立ち、よく見れば青い実をつけ、
黒々とした桑の木の瘤や、怒っているような薔薇の木の瘤、

100年目ごとに、あの見事な納屋という納屋は
水色か、クリーム色の塗料で塗り替えられる。
ノートル・ダムや藁にまみれた聖人像のそばに
たとえ異様な聖なる物がゴロゴロ置かれていようとも
ハエは旅館や牛小屋に結構な匂いを漂わせ
陽の当たった床からは蠟(ろう)を嫌というほど詰め込むのだ。

子供は家に尽くさなければならないということで、つまりは
凡々とした世話ごとや人を愚鈍にする体の仕事に励まねばならない。
彼らは皮膚がムズムズするのを忘れて外に出る、
皮膚にはキリストの司祭様が今まさに効験あらたかな手を置かれたところだった。
彼らは司祭様には東屋の陰の濃い屋根を提供する
すると彼らは日焼けした額を陽に晒させてもらえるというわけだ。

初めて着る黒衣よ、ドラヤキの美しく見える日よ、
ナポレオンの形をしたのや、小判の形をしたのや
あるいは、飾り立てられてジョセフとマルトが
恋しさあまって舌ベロを出した絵のあるものや
――科学の時代にもふさわしいであろうこれらのデザイン――
これらわずかのものこそが最初の聖体拝受の思い出として彼らの胸に残るもの。

娘たちはいつでもはしゃいで教会に行く、
若い男衆から卑猥なジョークを囁かれるのをよいことに。
若者たちはミサの後、それとも愉快な日暮れどき、よく密会をするのです。
屯営部隊のハイカラもんである彼らときては、カフェで
勢力のある家々のことなど、悪口を言い散らし
新しい作業服を着て、恐ろしい歌を怒鳴るという始末。

さて、主任司祭様は子供たちのための絵図をお選びになられました。
主任司祭様の菜園に、あの日暮れどき、空気が遠くのほうから
そこはかとなく舞踊曲が満ちてくる時、
主任司祭様には、神様の御禁戒にも拘わらず
足の指がはしゃぎ出すのや、ふくらはぎが膨らむのをお感じになる……
――夜が来ると、黒い海賊船が金のみそらに現われ出でます。

以上が、
第1節の全7連です。

とりあえず
どんな詩かを見るために
ざっと目を通しましたが

初めて着る黒衣よ、ドラヤキの美しく見える日よ、
ナポレオンの形をしたのや、小判の形をしたのや
あるいは、飾り立てられてジョセフとマルトが
恋しさあまって舌ベロを出した絵のあるものや

ここに、タイトルの聖体そのものが登場するほかは、
ありふれた教会風景の描写といったところでしょうか。

少しだけ、
キリストの司祭様へのジャブ――

まだ、その程度のアンチ・キリストです。

 *
 最初の聖体拝受

     Ⅰ

それあもう愚劣なものだ、村の教会なぞといふものは
其処に可笑をかしな村童の十四五人、柱に垢をつけながら
神聖なお説教がぽつりぽつりと話されるのを聴いてゐる、
まこと奇妙な墨染の衣、その下では靴音がごそごそとしてゐる。
あゝそれなのに太陽は木々の葉越しに輝いてゐる、
不揃ひな焼絵玻璃(やきゑがらす)の古ぼけた色を透して輝いてゐる。

石は何時でも母なる大地を呼吸してゐる。
さかりがついて荘重に身顫ひをする野原の中には
泥に塗(まみ)れた小石の堆積(やま)なぞ見受けるもので、
重つたるい麦畑の近く、赫土の小径の中には
焼きのまはつた小さな木々が立つてゐて、よくみれば青い実をつけ、
黒々とした桑の樹の瘤(こぶ)や、怒気満々たる薔薇の木の瘤、

百年目毎に、例の美事な納屋々々は
水色か、クリーム色の野呂で以て塗換へられる。
ノートル・ダムや藁まみれの聖人像の近傍に
たとへ異様な聖物はごろごろし過ぎてゐようとも、
蠅は旅籠屋や牛小舎に結構な匂ひを漂はし
日の当つた床からは蠟を鱈腹詰め込むのだ。

子供は家に尽さなければならないことで、つまりその
凡々たる世話事や人を愚鈍にする底の仕事に励まにやならぬのだ。
彼等は皮膚がむづむづするのを忘れて戸外(そと)に出る、
皮膚にはキリストの司祭様が今し効験顕著(あらたか)な手をば按(お)かれたのだ。
彼等は司祭様には東屋の蔭濃き屋根を提供する
すると彼等は日焼けした額をば陽に晒させて貰へるといふわけだ。

最初(はじめて)の黒衣よ、どらやきの美しく見ゆる日よ、
ナポレオンの形をしたのや小判の形をしたの
或ひは飾り立てられてジョゼフとマルトが
恋しさ余つて舌(べろ)を出した絵のあるものや
――科学の御代にも似合(ふさ)はしからうこれらの意匠――
これら僅かのものこそが最初の聖体拝受の思ひ出として彼等の胸に残るもの。

娘達は何時でもはしやいで教会に行く、
若い衆達から猥(わい)なこと囁かれるのをよいことに
若い衆達はミサの後、それとも愉快な日暮時、よく密会をするのです。
屯営部隊のハイカラ者なる彼等ときては、カフヱーで
勢力のある家々のこと、あしざまに云ひ散らし、
新しい作業服着て、恐ろしい歌を怒鳴るといふ始末。

扨、主任司祭様には子供達のため絵図を御撰定遊ばした。
主任司祭様の菜園に、かの日暮時、空気が遠くの方から
そこはかとなく舞踏曲に充ちてくる時、
主任司祭様には、神様の御禁戒にも拘らず
足の指がはしやぎだすのやふくらはぎがふくらむのをお感じになる……
――夜が来ると、黒い海賊船が金の御空に現れ出ます。

     Ⅱ

司祭様は郊外や豊かな町々の信者達の間から
名も知れぬ一人の少女を撰り出しなされた
その少女の眼は悲しげで、額は黄色い色をしてゐた。
その両親は親切な門番か何かのやうです。
《聖体拝受のその日に、伝導師の中でもお偉い神様は
この少女の額に聖水を、雪と降らしめ給ふであらう。》

     Ⅲ

最初の聖体拝受の前日に、少女は病気になりました。
上等の教会の葬式の日の喧噪よりも甚だしく
はじめまづ悪寒が来ました、――寝床は味気なくもなかつた、
並(なみ)ならぬ悪寒は繰返し襲つて来ました、《私は死にます……》

恋の有頂天が少女の愚かな姉妹達を襲つた時のやうに、
少女は打萎れ両手を胸に置いたまゝ、熱心に
諸天使や諸所のエス様や聖母様を勘定しはじめました、
そして静かに、なんとも云へぬ喜びにうつとりするのでありました。

神様!……――羅典の末期にありましては、
緑の波形(なみがた)ある空が朱(あけ)色の、
天の御胸(みむね)の血に染(し)みた人々の額を潤ほしました、
雪のやうな大きな麻布は、太陽の上に落ちかゝりました!――

現在の貞潔のため、将来の貞潔のために
少女はあなたの『容赦(みゆるし)』の爽々(すがすが)しさにむしやぶりついたのでございますが、
水中の百合よりもジャムよりももつと
あなたの容赦(みゆるし)は冷たいものでございました、おやシオンの女王様よ!

     IIII

それからといふもの聖母ははや書物(ほん)の中の聖母でしかなかつた、
神秘な熱も時折衰へるのであつた……
退屈(アンニユイ)や、どぎつい極彩色や年老いた森が飾り立てる
御容姿(みすがた)の数々も貧弱に見え出してくるのであつた、

どことなく穢らはしい貴重な品の数々も
貞純にして水色の少女の夢を破るのであつた、
又脱ぎ捨てられた聖衣の数々、
エス様が裸体をお包みなされたといふ下著をみては吃驚するのでありました。

それなのになほも彼女は願ふ、遣瀬なさの限りにゐて、
歔欷に窪んだ枕に伏せて、而も彼女は
至高のお慈悲のみ光の消えざらんやう願ふのであつた
扨涎(よだれ)が出ました……――夕闇は部屋に中庭に充ちてくる。

少女はもうどうしやうもない。身を動かし腰を伸ばして、
手で青いカーテンを開く、
涼しい空気を少しばかり敷布や
自分のお腹(なか)や熱い胸に入れようとして。

     Ⅴ

夜中目覚めて、窓はいやに白つぽかつた
灯火(ひかり)をうけたカーテンの青い睡気のその前に。
日曜日のあどけなさの幻影が彼女を捉へる
今の今迄真紅(まつか)な夢を見てゐたつけが、彼女は鼻血を出しました。

身の潔白を心に感じ身のか弱さを心に感じ
神様の温情(みなさけ)をこころゆくまで味ははうとて、
心臓が、激昂(たかぶ)つたりまた鎮まつたりする、夜を彼女は望んでゐました。
そのやさしい空の色をば心に想ひみながらも、

夜(よる)、触知しがたい聖なる母は、すべての若気を
灰色の沈黙(しじま)に浸してしまひます、
彼女は心が血を流し、声も立て得ぬ憤激が
捌(は)け口見付ける強烈な夜(よる)を望んでゐたのです。

扨夜(よる)は、彼女を犠牲(にへ)としまた配偶となし、
その星は、燭火手に持ち、見てました、
白い幽霊とも見える仕事着が干されてあつた中庭に
彼女が下り立ち、黒い妖怪(おばけ)の屋根々々を取払ふのを。

     Ⅵ

彼女は彼女の聖い夜(よる)をば厠の中で過ごしました。
燭火(あかり)の所、屋根の穴とも云ひつべき所に向けて
白い気体は流れてゐました、青銅色の果(み)をつけた野葡萄の木は
隣家(となり)の中庭(には)のこつちをばこつそり通り抜けるのでした。

天窗は、ほのぼの明(あか)る火影(あかり)の核心
窓々の、硝子に空がひつそりと鍍金してゐる中庭の中
敷石は、アルカリ水の匂ひして
黒い睡気で一杯の壁の影をば甘んじて受けてゐるのでありました……

     Ⅶ

誰か恋のやつれや浅ましい恨みを口にするものぞ
また、潔い人をも汚すといふかの憎悪(にくしみ)が
もたらす所為を云ふものぞ、おゝ穢らはしい狂人等、
折も折かの癩が、こんなやさしい肉体を啖(くら)はんとするその時に……

     Ⅷ

さて彼女に、ヒステリックな錯乱がまたも起つて来ますといふと
彼女は目(ま)のあたり見るのです、幸福な悲愁の思ひに浸りつつ、
恋人が真つ白い無数のマリアを夢みてゐるのを、
愛の一夜の明け方に、いとも悲痛な面持(おももち)で。

《御存じ? 妾(あたし)が貴方を亡くさせたのです。妾は貴方のお口を心を、
人の持つてるすべてのもの、えゝ、貴方のお持ちのすべてのものを
奪つたのでした。その妾は病気です、妾は寝かせて欲しいのです
夜(よ)の水で水飼はれるといふ、死者達の間に、私は寝かせて欲しいのです

《妾は稚(わか)かつたのです、キリスト様は妾の息吹をお汚しなすつた、
その時妾は憎悪(にくしみ)が、咽喉(のど)までこみあげましたのです!
貴方は妾の羊毛と、深い髪毛に接唇(くちづけ)ました、
妾はなさるがまゝになつてゐた……あゝ、行つて下さい、その方がよろしいのです、

男の方々(かたがた)は! 愛情こまやかな女といふものが
汚い恐怖(おそれ)を感(おぼ)える時は、どんなにはぢしめられ、
どんなにいためられるものであるかにお気付きならない
又貴方への熱中のすべてが不品行(あやまち)であることにお気付きならない!

《だつて妾の最初の聖体拝受は取行はれました。
妾は貴方の接唇(くちづけ)を、お受けすることは出来ません、
妾の心と、貴方がお抱きの妾のからだは
エス様の腐つた接唇でうようよしてます!》

     Ⅸ

かくて敗れた魂と悲しみ悶える魂は
キリストよ、汝が呪詛の滔々と流れ流れるを感ずるのです、
――男等は、汝が不可侵の『憎悪』の上に停滞(とどま)つてゐた、
死の準備のためにとて、真正な情熱を逃れることにより、

キリストよ! 汝永遠の精力の掠奪者、
父なる神は二千年もの間、汝が蒼白さに捧げしめ給うたといふわけか
恥と頭痛で地に縛られて、
動顛したる、女等のいと悲しげな額をば。

(角川書店「新編中原中也全集 第3巻 翻訳」より)
※原作は、第8節最終連最終行を、「うよ/\してます!」と繰り返し記号で表記しています。また、原作の「二重パーレン」は、《 》で代用し、ルビは原作にあるもののみを( )の中に入れました。編者。

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