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2012年3月18日 (日)

中原中也が訳したランボー「四行詩」Quatrain

「四行詩」Quatrainは
ランボーの妹イザベルの夫パテルヌ・ベリションが
便宜的に付けたもので
もとはタイトルのない詩です。

「母音」の由来が
「地獄の季節」中の「錯乱Ⅱ」で
「言葉の錬金術」によって作られたものとする
ランボー自身の種明かしがありますが
この「四行詩」も
錬金術によって生れた詩のようです。

耳、
項(うなじ)から腰、
乳房、
脇腹――

これら人間の肉体、とりわけ女性の肉体の部分を
色で表すとこうなる、という詩で
「俺は母音の色を発明した。」という「母音」と
繋がっています。

耳は、バラ色
首から腰は、真白
乳房は、褐色(かちいろ)
脇腹は、黒――となりますが
そんなに単純ではなく
星はお前の耳の真ん中でバラ色に泣いている
無限はお前の首から腰にかけて真っ白に巡り
海は朱色のお前の乳房を褐色の真珠と化し
そして人(男)は黒い血を流す最高のお前の脇腹の上を……
――と、肉体の部分の色は、
森羅万象(星、無限、海、人)のイメージと絡まりながら
万華鏡のような色彩の乱舞となります。

音も聞えてこなければなりませんが
「俺は翻訳を保留した。」とあるように
色彩とともに、
韻、喩、律動などの音が
翻訳されることなどあり得ないことはすでに宣言されています。
(「保留した」という言い方は、わずかな可能性をほのめかしてはいますが)

ここで突然、李白、杜甫、白楽天などの詩が想起されてしまいます。
唐詩(漢詩)制作上のルールのことが
ランボーのアイデアの中にあってもおかしくはない、と
だれもが思い至るに違いない
字数、句数、押韻、対句、平仄……といったルールと
ランボーの試みた詩作とが
ダブってくるのです。

ここに深入りはしませんが
「四行詩」と絶句(五言、七言)は
パッと見て分かる共通点を持ちますし
パッと見ただけでは見えない別物かもしれませんが
一応、比べて見ても無駄にはならないはずのものです。

L’étoile a pleuré rose au cœur de tes oreilles,
L’infini roulé blanc de ta nuque à tes reins,
La mer a perlé rousse à tes mammes vermeilles
Et l’Homme saigné noir à ton flanc souverain.

これは
ランボーの「四行詩」の原文です。
フランス語を少し知っていれば
各行の頭と末尾の韻が見えるはずです。

絶句では五言で
知らない者はいないほど
有名な孟浩然(もうこうねん)の「春暁」

春眠不覚暁
処処聞啼鳥
夜来風雨声
花落知多少

春眠 暁を覚えず
処処 啼鳥を聞く
夜来 風雨の声
花落つることを知る多少ぞ

この詩も
漢語の発音ができるだけで
行末の韻=脚韻が踏まれているのが
判然としています。
「曉」「鳥」「少」は
漢音で「ぎょう」「ちょう」「しょう」ですから
中国語の発音を知らなくても韻とわかります。

韻を翻訳しようなんて
所詮、無理ということが分かろうということですが
古今東西の翻訳者は
多少なりとも
韻をさえ翻訳しようとしてきた形跡があり
その歴史に満ちています。

 *

 四行詩

星は汝が耳の核心に薔薇色に涕き、

無限は汝(な)が頸(うなじ)より腰にかけてぞ真白に巡る、

海は朱(あけ)き汝(なれ)が乳房を褐色(かちいろ)の真珠とはなし、

して人は黒き血ながす至高の汝(なれ)が脇腹の上……

(講談社文芸文庫「中原中也全訳詩集」より)
※ルビは原作にあるもののみを( )の中に入れました。編者。

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