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2012年3月20日 (火)

中原中也が訳したランボー「四行詩」Quatrainその3

「四行詩」Quatrainの
中原中也以外の訳を
もう少し見ておきましょう。

粟津則雄の訳は、

(星はおまえの耳のただなかで……)

星はおまえの耳のただなかで薔薇色に泣き、
無限はおまえのうなじから腰へと白くめぐり、
海は朱いおまえの乳房で褐色の玉となり、
男はおまえの至高の脇腹で黒い血を流した。
                 L’Étoile a pleuré……

――となります。

新城善雄の訳は、

星は薔薇色に泣いた おまえの耳の中心で
無限は白くめぐった おまえの首筋から腰へと
海は褐色の玉となった おまえの朱色の乳房で
そして男は黒い血を流した おまえの至上の脇腹で

――となります。

この訳が載っている「ランボー母音文学機械」(創樹社)は
ランボーの詩の
十四行詩「母音」と
四行詩(星は薔薇色に泣いた……)と
「涙」の3作品を「母音製図機」と呼び
フランスの哲学者ドゥルーズの「文学機械」のコンセプトを借りながら
「母音」を起点とする(に隠された)謎として分析し
解き明かそうとした研究書です。

鈴木創士の訳は、

(星はおまえの耳のまんなかで…)

星はおまえの耳のまんなかで薔薇色の涙を流した、
無限はおまえのうなじから腰にかけて白く転がった
海はおまえの朱色の乳房で赤茶色お雫となった
そして「人間」はおまえの至高の脇腹で黒い血を流した。

――となります。

宇佐美斉の訳は、

(星は薔薇色に泣いた……)

星は薔薇色に泣いた きみの耳の中核で
無限が白く走った きみの項(うなじ)から腰へと
海は赤茶色の玉となって浮かんだ きみの朱い乳首で
そして男は黒い血を流した きみの神々しい脇腹に

――となります。

鈴村和成の訳は、

(星はきみの耳の核心に……)

星はきみの耳の核心にバラ色の涙をながし、
無限はきみのうなじから腰へと白くめぐる、
海はきみの朱の乳首に褐色の真珠をかざり、
そして《人》は至高のきみのわき腹に黒い血をながす。

――となります。

今、手元にあるのは
これほどですが
名のあるランボー訳者は
ざっと数えるだけで30人を下りませんから
少なくとも30通りの翻訳が存在するはずです。

しかし、短詩であるゆえにか
「四行詩」は
それぞれの訳に
それほど差異は認められません。

ここで
まったく突然のことになりますが
ランボーの「四行詩」は
中原中也の創作詩「みちこ」にどこか似ている! という
ひらめきが涌きましたので
ここに引いておくことにします。

「みちこ」は
「山羊の歌」の中の「みちこ」の章のトップにあり
「汚れつちまつた悲しみに……」の前にあります。

女体を歌った詩が
なぜここに置かれているのか――
ランボーの「四行詩」の様々な形を読んでいて
その謎が少し解けるような
ひらめきがありました。

あくまで、ひ・ら・め・き・ですが。

 ◇

 みちこ

そなたの胸は海のやう
おほらかにこそうちあぐる。
はるかなる空、あをき浪、
涼しかぜさへ吹きそひて
松の梢をわたりつつ
磯白々とつづきけり。

またなが目にはかの空の
いやはてまでもうつしゐて
竝びくるなみ、渚(なぎさ)なみ、
いとすみやかにうつろひぬ。
みるとしもなく、ま帆片帆
沖ゆく舟にみとれたる。

またその顙(ぬか)のうつくしさ
ふと物音におどろきて
午睡の夢をさまされし
牡牛(をうし)のごとも、あどけなく
かろやかにまたしとやかに
もたげられ、さてうち俯しぬ。

しどけなき、なれが頸(うなじ)は虹にして
ちからなき、嬰児(みどりご)ごとき腕(かひな)して
絃(いと)うたあはせはやきふし、なれの踊れば、
海原はなみだぐましき金(きん)にして夕陽をたたへ
沖つ瀬は、いよとほく、かしこしづかにうるほへる
空になん、汝(な)の息絶ゆるとわれはながめぬ。

(角川ソフィア文庫「中原中也全詩集」より)

 *

 四行詩

星は汝が耳の核心に薔薇色に涕き、

無限は汝(な)が頸(うなじ)より腰にかけてぞ真白に巡る、

海は朱(あけ)き汝(なれ)が乳房を褐色(かちいろ)の真珠とはなし、

して人は黒き血ながす至高の汝(なれ)が脇腹の上……

(講談社文芸文庫「中原中也全訳詩集」より)
※ルビは原作にあるもののみを( )の中に入れました。編者。

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