中原中也が訳したランボー「四行詩」Quatrainその2
「四行詩」Quatrainは
L’étoile星
L’infini無限(永遠)
La mer海
Et l’Homme (そして)人(男)
――を行頭に主語として置いていますから
星は、
無限は、
海は、
人(男)は、
――と訳せば、
逐語的な訳になり
中原中也もそうしていますが
ここを意訳して原作に近づこうとする訳者もあって
人それぞれの個性的な訳ができあがります。
◇
ベルレーヌの案内――
○彼は決して平板な韻は踏まなかつた。
○しつかりした構へ、時には凝つてさへゐる詩。
○気儘な句読は稀であり、句の跨り一層稀である。
――を思い起こしたり
「見者の詩論」と突き合わせたりして
この「四行詩」もそのように作られているものと
目を凝らして読み返すのが習いになり
ランボー作品の中で最も短いこの詩の各行を
原作に当たってまでして
何度も何度も口ずさんでみることになります。
L’étoile a pleuré rose au cœur de tes oreilles,
L’infini roulé blanc de ta nuque à tes reins,
La mer a perlé rousse à tes mammes vermeilles
Et l’Homme saigné noir à ton flanc souverain.
◇
これを
中原中也の同時代訳である
西条八十訳で読んでみると――
星は君が耳のさなかに薔薇色に泣き、
無限は君が項(うなじ)より腰へと白くまろびぬ。
海は、君があかき乳房に鳶色(とびいろ)の真珠をちりばめ
かくて、男は君がこよなき脇腹に黒き血を流しぬ。
(中央公論社「アルチュール・ランボー研究」より)
――となります。
西条八十訳の「四行詩」は
昭和5年発行の「世界文学全集」の
第37巻「近代詩人集」(新潮社)に収録されていますから
中原中也は読む可能性の中にありましたが
読んだか否かは分かりません。
◇
短い詩なので
同時代訳だけではなく
他の訳と比べて読めるチャンスでもありますから
少し脱線してみますと――。
◇
金子光晴の訳は――
四行詩
星は、君の耳殻に墜(お)ちて、薔薇色(ばらいろ)にすすり泣き
君の頸(くび)すじから、腰のあたりへ、無限がその白さをころがした。
君のあたたかい乳房は、あこや珠に照りはえてゆらめき、
男は、その妙なる横腹に、黒い血を流した。
(角川文庫「イリュミナシオン アルチュール・ランボオ」より)
――となります。
◇
堀口大学の訳は――
四行詩
別題 ヴィナス生誕
星泣きぬ、ばら色に、汝(な)が耳の、奥の奥。
無窮まろびぬ白妙(しろたえ)に、汝(な)が首(うなじ)より臀(いしき)かけ。
朱真珠(あけまだま)海の置けるよ、茜(あかね)さす汝(な)が胸に、
かくてこそ男たち、黒々と血をしたたらす、たぐいなき汝(な)がわき腹に。
Quatrain
――となります。
(つづく)
*
四行詩
星は汝が耳の核心に薔薇色に涕き、
無限は汝(な)が頸(うなじ)より腰にかけてぞ真白に巡る、
海は朱(あけ)き汝(なれ)が乳房を褐色(かちいろ)の真珠とはなし、
して人は黒き血ながす至高の汝(なれ)が脇腹の上……
(講談社文芸文庫「中原中也全訳詩集」より)
※ルビは原作にあるもののみを( )の中に入れました。編者。
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