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2012年3月14日 (水)

中原中也が訳したランボー「母音」Voyellesその5

ランボーの「母音」Voyelleは
ベルレーヌの「呪われた詩人たち」の中の「アルテュール・ランボー」や
アーサー・シモンズの「象徴主義の文学運動」に引用されたために
いちはやく世界中へ知れ渡ったのですが
そのために日本においても
早くから翻訳が盛んに行われました。

中原中也の同時代訳として
①折竹蓼峰訳でラムボウ「母音」が「帝国文学」に明治41年1月、
②岩野泡鳴訳アルチュル・ランボ「Voyelles(母韻)」が
 「表徴派の文学運動」(新潮社、大正2年)の中に引用され、
③蒲原有明訳アルチユウル・ランボオ「母音」が
 「有明詩集」(アルス、大正11年)に、
④金子光晴訳アルチュール・ランボオ「母音」が
 「近代仏蘭西詩集」(紅玉堂、大正14年)に、
⑤大木篤夫訳アルチュゥル・ラムボオ「母音」が
 「近代仏蘭西詩集」(アルス、昭和3年)に
――といった具合に発表されています。
(「新編中原中也全集 第3巻 翻訳・解題篇」より)

上田敏の「海潮音」が出版されたのは
明治38年(1905年)で、
「酔ひどれ船」の未定稿が収録された「牧羊神拾遺」は
翌明治39年です。

上田敏や堀口大学の名前は
「母音」に関して
同時代訳には現れませんが
ランボーへ無接触ということではなさそうで
世に現れないまでも
懸命に取り組まれていた節があります。

中原中也訳「母音」は
昭和11年発行の「ランボオ詩抄」に初出しますから
これらの同時代翻訳への遅い参戦ということになります。

ここで
「母音」の翻訳としては最初(最古)の
折竹蓼峰訳が新編全集に掲出されていますから
参考のために見ておきましょう。
当然、同書からの孫引きということになります。

折竹蓼峰は
「おりたけ・りょうほう」と読み
明治17年(1884年)生れ、昭和25年(1950年)没の
翻訳家、フランス語学者です。

母音
折竹蓼峰訳

母音A(ア)黒E(エ)白I(イ)赤U(ウ)緑O(オ)藍――
吾ひと日隠れたる汝(いまし)らが起源を語らむ。
A影の海、悪臭の巷をめぐり
輝くは小紋のそうしょく(かざり)毛に織れるコルセット。

E狭霧(さぎり)の匂、荒妙(あらたへ)の天幕(テント)の真白、
物傲(ものおご)り氷河は高く野には亦傘花(さんか)のゆらぎ。
Iくれなゐ、“かと”吐きし血汐の叫、痛ましの
憤怒に酔(ゑひ)に強ひて浮く朱唇の笑(ゑま)ひ。

Oいと奇しき烈帛(れつぱく)の「菰(ラツパ)」の声か、
「衆生界」亦天界の経(たて)に織りつぐ沈黙か――
閃(きらめ)くは久遠の「眼」オメガの光!

(※ルビは一部省略しました。また、本文中の“かと”は、原作では傍点になっています。編者。)

文語体が目立ち
中原中也の時代が
新しい時代に入っていることを思わせます。

中原中也は
明治生まれ(明治40年、1907年)なのですが
ものごごろついたのは大正時代ですから
明治気質(かたぎ)を残しつつ
大正世代、昭和世代の人です。

その言語感覚は
明らかに
大正デモクラシーをくぐり抜けて
関東大震災を超えて
また第一次世界大戦を経過して
形成されました。

 *

 母音

Aは黒、Eは白、Iは赤、Uは緑、Oは青、母音たち、
おまへたちの穏密な誕生をいつの日か私は語らう。
A、眩ゆいやうな蠅たちの毛むくぢやらの黒い胸衣(むなぎ)は
むごたらしい悪臭の周囲を飛びまはる、暗い入江。

E、蒸気や天幕(テント)のはたゝめき、誇りかに
槍の形をした氷塊、真白の諸王、繖形花顫動、
I、緋色の布、飛散(とばち)つた血、怒りやまた
熱烈な悔悛に於けるみごとな笑ひ。

U、循環期、鮮緑の海の聖なる身慄ひ、
動物散在する牧養地の静けさ、錬金術が
学者の額に刻み付けた皺の静けさ。

O、至上な喇叭らつぱの異様にも突裂(つんざ)く叫び、
人の世と天使の世界を貫く沈黙。
――その目紫の光を放つ、物の終末!

(講談社文芸文庫「中原中也全訳詩集」より)
※ ルビは原作にあるもののみを( )の中に入れました。編者。
※ なお、同文庫1990年9月10日発行の第一刷では、第1連で「Oは赤」となっているのは、第2次形態、第3次形態での中原中也の誤記を「ママ」としたもののようですが、ここでは正しました。

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