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2012年3月13日 (火)

中原中也が訳したランボー「母音」Voyellesその4

アルチュール・ランボーを
いちはやく世界に紹介したもののうち
英語で書かれた著作が
アーサー・シモンズの「象徴主義の文学運動」でした。
(Arthur Symons:The symbolist movement in literature)
初版は1899年、ロンドンのWilliam Heinemann社。

日本では
岩野泡鳴の訳が「表徴派の文学運動」(新潮社)として
大正2年(1913年)に発行される以前も以後も
シモンズは多くの文学者、詩人らによって参照されましたが
この泡鳴訳で
およそ10年遅れながらも
ランボーの存在が学究の徒のみならず
一般読者へも伝えられ
フランス象徴詩全般が
広く世の中へ知られることになりました。
泡鳴の人気は
大変なものだったのです。

岩野泡鳴訳の「表徴派の文学運動」は
現在、読もうとしてもなかなか読めないので
比較的最近になって翻訳された
樋口覚「象徴主義の文学運動」(昭和53年、国文社)から
ランボーに関する記述を拾っておくことにします。

そうすると
ここにも「母音」は
「地獄の季節」の中の「言葉の錬金術」のくだりの案内とともに
引用されている場面にぶつかるのです。

シモンズは

「言葉の錬金術」において彼は、自己の幻覚の分析家になる。彼は書いている。

――と前置きして

俺は母音の色を発明した。(原註1)――Aは黒、Eは白、Iは赤、Oは青、Uは緑。――俺は子音それぞれの形態と運動とを整調した、而も、本音の律動によって、幾時かはあらゆる感覚に通ずる詩的言辞も発明しようとひそかに希う処があったのだ。俺は翻訳を保留した。……素朴な幻覚には慣れていたのだ。何んの遅疑なく俺は見た、工場のある処に回教の寺を、太鼓を教える天使等の学校を。無蓋の四輪馬車は天を織る街道を駆けたし、湖の底にはサロンが覗いたし、様々な不可思議。ヴォドヴィルの一外題は、様々の吃驚を目前にうち立てた。而も俺は、俺の魔法の詭弁を、言葉の幻覚によって説明したのだ。この精神の乱脈も、所詮は神聖なものと俺は合点した。
(※この部分は、鈴木信太郎の訳であるとの、樋口覚の注があります。なお、この部分は、現代表記に改めました。編者。)

――と、「地獄の季節」中「錯乱Ⅱ」の
「言葉の錬金術」に関するくだりを引用します。

そして、(原註1)を結末に付して
次のように、解説を加えます。

(原註1) 以下は有名なソネであるが、見られるように、過度にまじめに受けとるべきではないにせよ、単なる冗句ともまた違ったものである。

 (※「母音」本文の引用がここにありますが省略。)
 
この暗号や起源については、最近ではランボオが以前、古い「ABC読本」を見たことによっていると言われている。ランボオの詩とほぼ同じように、その本の中では母音が、Aは黒、E黄、I赤、O青、Uは緑というように色がつけられていたのだ。奇妙なことには、この絵本の小冊子にはどこかランボオの俤がとどめられている。

以上、
樋口覚訳の「象徴主義の文学運動」の
「アルチュール・ランボオ」のさわりだけを紹介しました。
さわりが「母音」に関する読みに集中しているのです。

中原中也は
岩野泡鳴訳でシモンズを読んだのですから
岩野の「クセ」のある訳出を通じて
ランボーに近づいていったことになります。

ポール・ベルレーヌも
アーサー・シモンズも
ランボーを紹介した時
「母音」の全文を引用したということで
この詩は
全世界に「代表作」(の一つ)として伝わっていきました。

 *

 母音

Aは黒、Eは白、Iは赤、Uは緑、Oは青、母音たち、
おまへたちの穏密な誕生をいつの日か私は語らう。
A、眩ゆいやうな蠅たちの毛むくぢやらの黒い胸衣(むなぎ)は
むごたらしい悪臭の周囲を飛びまはる、暗い入江。

E、蒸気や天幕(テント)のはたゝめき、誇りかに
槍の形をした氷塊、真白の諸王、繖形花顫動、
I、緋色の布、飛散(とばち)つた血、怒りやまた
熱烈な悔悛に於けるみごとな笑ひ。

U、循環期、鮮緑の海の聖なる身慄ひ、
動物散在する牧養地の静けさ、錬金術が
学者の額に刻み付けた皺の静けさ。

O、至上な喇叭らつぱの異様にも突裂(つんざ)く叫び、
人の世と天使の世界を貫く沈黙。
――その目紫の光を放つ、物の終末!

(講談社文芸文庫「中原中也全訳詩集」より)
※ ルビは原作にあるもののみを( )の中に入れました。編者。
※ なお、同文庫1990年9月10日発行の第一刷では、第1連で「Oは赤」となっているのは、第2次形態、第3次形態での中原中也の誤記を「ママ」としたもののようですが、ここでは正しました。

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