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2012年3月12日 (月)

中原中也が訳したランボー「母音」Voyellesその3

中原中也訳の「母音」Voyellesの第1次形態は
ベルレーヌの「呪われた詩人たち」の中の
「アルテュル・ランボオ」に引用されているものを
昭和7年に中也が翻訳を試みたものですが
ベルレーヌは
この詩「母音」をどんな考えで引用したのか?
――という疑問が涌きます。

 この疑問の答えは、「母音」が引用される前に
ベルレーヌが次のように書いていることで明らかです。
中原中也訳で一度読みましたが
ここで再び詳しく見ておきます。
 

ランボオの作品は、その極度の青春時、1869、70、71年を終るに当つては、もはや沢山であつて、敬すべき一巻の書を成してゐた。

それは概して短い詩を含む書である、十四行詩、八行詩、四、五乃至六行を一節とする詩。

彼は決して平板な韻は踏まなかつた。

しつかりした構へ、時には凝つてさへゐる詩。

気儘な句読は稀であり、句の跨り一層稀である。

語の選択は何時も粋で、趣向に於ては偶々学者ぶる。

語法は判然してゐて、観念が濃くなり、感覚が深まる時にも猶明快である。加之讃ふべきその韻律。

次の十四行詩こそそれらのことを証明しよう。

(「新編中原中也全集 第3巻 翻訳」より。改行・行空きを加えてあります。編者。)

 ◇

以上が書かれた後に
「次の十四行詩」として
「母音」が引用されるのです。

「母音」は、典型的なソネットです。
4-4-3-3の14行詩。
その約束事に則(のっと)った詩であるということは
まず念頭に入れておきたいことです。

その当たり前のことを
ベルレーヌも指摘しています。

概して短い詩。
十四行詩。
韻を踏む、ただし、平板な韻ではない。
しっかりした構え、時には凝(こ)ってさえいる。
気儘(きまま)な句読は稀であり、句の跨(またが)り一層稀である。

このあたりまで
ソネットの特徴と言ってもおかしくはないものでしょう。

語の選択は何時でも粋(いき)で、
趣向に於ては偶々(たまたま)学者ぶる。

ここら辺に
ランボーの詩の特徴はありそうです。
言葉の選択が粋=「天才的」で
時々、学者ぶっている。
ランボーの博識ぶりをやや皮肉っている感じ。

さらに

語法は判然してゐて、
観念が濃くなり、
感覚が深まる時にも猶(なお)明快である。
加之(のみならず)讃(たと)ふべきその韻律。

ここら辺も
ランボー独特のものです。

最後の「韻律」は
メロディーほどの意味でしょうか。
リズムといったほうがよいでしょうか。
詩の流れ、音感といったものが抜群である、とベルレーヌは讃えるのです。

ソネットの約束事を
きちんと踏まえたうえで
ランボー流を展開している、というのが
ベルレーヌの紹介です。

基礎ができた上に
応用されている、ということを言っています。

この応用の部分で
「母音」は
多様な解釈を誘うことになります。

 *

 母音

Aは黒、Eは白、Iは赤、Uは緑、Oは青、母音たち、
おまへたちの穏密な誕生をいつの日か私は語らう。
A、眩ゆいやうな蠅たちの毛むくぢやらの黒い胸衣(むなぎ)は
むごたらしい悪臭の周囲を飛びまはる、暗い入江。

E、蒸気や天幕(テント)のはたゝめき、誇りかに
槍の形をした氷塊、真白の諸王、繖形花顫動、
I、緋色の布、飛散(とばち)つた血、怒りやまた
熱烈な悔悛に於けるみごとな笑ひ。

U、循環期、鮮緑の海の聖なる身慄ひ、
動物散在する牧養地の静けさ、錬金術が
学者の額に刻み付けた皺の静けさ。

O、至上な喇叭らつぱの異様にも突裂(つんざ)く叫び、
人の世と天使の世界を貫く沈黙。
――その目紫の光を放つ、物の終末!

(講談社文芸文庫「中原中也全訳詩集」より)
※ ルビは原作にあるもののみを( )の中に入れました。編者。
※ なお、同文庫1990年9月10日発行の第一刷では、第1連で「Oは赤」となっているのは、第2次形態、第3次形態での中原中也の誤記を「ママ」としたもののようですが、ここでは正しました。

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