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2012年4月 4日 (水)

中原中也が訳したランボー「朝の思ひ」Bonne Pensée du matinその3

中原中也が訳した「朝の思い」Bonne Pensée du matinは
「飾画篇」の4番目にあるもので
1872年5月に作られました。

パリ・コンミューンから丁度1年後、
この1872年5月という時期は
ランボーの創作活動が極めて盛んだったことが知られています。

西条八十は
詩篇そのものに「1872年5月」と記されたものには
「朝の思ひ」をはじめ、

「涙」
「カシスの川」
「渇の喜劇」
「五月の軍旗」
「最も高き塔の歌」(中原中也訳は「最も高い塔の歌」)
「永遠」
――の7篇があるほか

「記憶」
「ブリュッセル」
「ミシェルとクリスチーヌ」(中原中也訳は「ミシェルとクリスチイヌ」)
「恥辱」(中原中也訳は「恥」)
「季節よ、城よ」(中原中也訳は「幸福」)
――や

「黄金時代」
「若夫婦」
「彼女はエジプトの歌姫か?」(中原中也訳は「彼女は埃及舞妓か?」)
「飢餓の祭」(中原中也訳は「飢餓の祭り」)
――などもこの頃の制作と推定しています。

色々な研究があるのでしょうが
西条八十は
これらの作品が
「酔いどれ船」を書く前後の状況の中で作られたことを明らかにしています。

「地獄の季節」の「錯乱Ⅱ」の「言葉の錬金術」で
「涙」とともに引用した「朝の思ひ」を
「試作」としつつ、

 俺の言葉の錬金術で、幅を利かせていたものは、およそ詩作の廃れものだ。
 
 素朴な幻覚には慣れていたのだ。何の遅疑なく俺は見た、工場のあるところに回々教(ういういきょう)の寺を、太鼓を教える天使らの学校を。無蓋の四輪馬車は天を織る街道を駆けたし、湖の底にはサロンが覗いたし、様々な妖術、様々な不可思議、ヴォドヴィルの一外題は、様々の吃驚を目前にうち立てた。

 しかも俺は、俺の魔法の詭弁を、言葉の幻覚によって説明したのだ。
                                           (小林秀雄訳)
 
――とランボーは自己分析し、もはや「過去のもの」と客体化しています。

ものすごいスピードで
今作ったばかりの自作を
過去の作品と見なす眼差しは
どこから生まれるのでしょうか。

「朝の思ひ」Bonne Pensée du matinは
作られた1872年5月から
幾日を経て
「過去」の作品になったのでしょうか――。

「朝の思ひ」第2連に登場する
「シャツ一枚の大工の腕」もまた
「魔法の詭弁を、言葉の幻覚によって説明した」ものと
考えてよいものでしょうか――。

色々に読める詩を
わざわざ読み急ぐことはありませんから
今は、
19世紀末フランスの郊外の
とある工作場の朝の
「シャツ一枚の大工の腕」を遠望している
詩人の心の眼に
何が映し出されていたのか
今はそれを思ってみるだけでよいのであり
わざわざこの詩から離れることもないでしょう。

ここで明らかなのは
「都市の富貴」(町に住む金持ち)のために働く彼ら・バビロン王の家来のために
ビーナスよ
「心驕れる愛人達」(愛の交歓に夢中な奴ら)は放っておくがよい、
牧人の女王よ
美味(うま)し酒をたんまり振る舞っておくれ、と
彼ら・シャツ一枚の大工たちに成り代って祈る詩人が存在するということです。

「シャツ一枚」の「白」が
エスペリイド(ヘスペリデス島)の方向に
昇りはじめた陽の光に映えて清冽です。

そして
「シャツ一枚の大工の腕」と訳したのは
中原中也の技です。
その技に乾杯です!

 *

 朝の思ひ

夏の朝、四時、
愛の睡気がなほも漂ふ
木立の下。東天は吐き出だしてゐる
   楽しい夕べのかのかをり。

だが、彼方(かなた)、エスペリイドの太陽の方(かた)、
大いなる工作場では、
シャツ一枚の大工の腕が
   もう動いてゐる。

荒寥たるその仕事場で、冷静な、
彼等は豪奢な屋敷の準備(こしらへ)
あでやかな空の下にて微笑せん
   都市の富貴の下準備(したごしらへ)。

おゝ、これら嬉しい職人のため
バビロン王の臣下のために、
ヹニュスよ、偶には打棄(うつちや)るがいい
   心驕れる愛人達を。

   おゝ、牧人等の女王様!
 彼等に酒をお与へなされ
 正午(ひる)、海水を浴びるまで
彼等の力が平静に、持ちこたへられますやうに。

(講談社文芸文庫「中原中也全訳詩集」より)
※ルビは原作にあるもののみを( )の中に入れました。編者。

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