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2012年4月 2日 (月)

中原中也が訳したランボー「朝の思ひ」Bonne Pensée du matin

Bonne Pensée du matinは
「地獄の季節」の「錯乱Ⅱ」の「言葉の錬金術」に
「涙」とともに引用されている詩です。
小林秀雄訳と同じく
中原中也も「朝の思ひ」と訳しました。

昭和12年9月発行の「ランボオ詩集」に初めて発表されたもので
「ランボオ詩抄」には収録されていません。

このことから制作時期は
①「ランボオ詩抄」が発行された昭和11年6月以降で
「ランボオ詩集」の原稿を野田書房に持ち込んだ昭和12年8月頃までの間
②建設社版「ランボオ全集」のために翻訳に集中した
昭和9年9月から翌10年3月までの間
――のどちらかであろうと推定されています。

散文で書かれた詩篇である「地獄の季節」には
韻文詩

「涙」
「朝の思ひ」
「最も高い塔の歌」
「飢餓の祭り」
「永遠」
「幸福」
――の6作品がランボー自らによって引用されています。

「朝の思ひ」を読むときに
必ずしも
「地獄の季節」の中の「朝の思ひ」を参照する必要はないのですが
なぜ、「地獄の季節」にランボーが引用したのかを知ることは
「朝の思ひ」という詩を読む手掛かりになりますから
読んでおくにこしたことではありません。

「地獄の季節」に引用されたテキストと
韻文詩篇と分類された「詩集」の中の同一の詩には
異同があり
この異同は単なる異同ではなくて
どちらかがより完成形に近いもの
バージョンの関係であるということなので、
比較して読むとよいらしい。

二つの詩篇を比べて読むと
ランボーの詩が猛スピードで変化していったことを発見できる、と
「ランボー全詩集」(河出文庫)の訳者・鈴木創士が
「解題」の中で明かしています。
鈴木創士は「地獄の季節」中の引用詩が
「詩篇」の詩に対して「決定稿」の位置にあることを案内しています。

そうとなれば
そこにはランボー詩を読む醍醐味(だいごみ)があるはずですから
ぜひともそのように読んでおきたいものですが……。

中原中也は「地獄の季節」を翻訳していませんし
小林秀雄は韻文詩をわずかしか翻訳していませんし
そもそも韻文詩篇と引用詩篇とが
バージョン関係にあるということについて
研究が進んでいなかった時代のランボー翻訳なのですから
残念ながら
中原中也や小林秀雄の訳では
その醍醐味にふれることはできません。

(つづく)

 *

 朝の思ひ

夏の朝、四時、
愛の睡気がなほも漂ふ
木立の下。東天は吐き出だしてゐる
   楽しい夕べのかのかをり。

だが、彼方(かなた)、エスペリイドの太陽の方(かた)、
大いなる工作場では、
シャツ一枚の大工の腕が
   もう動いてゐる。

荒寥たるその仕事場で、冷静な、
彼等は豪奢な屋敷の準備(こしらへ)
あでやかな空の下にて微笑せん
   都市の富貴の下準備(したごしらへ)。

おゝ、これら嬉しい職人のため
バビロン王の臣下のために、
ヹニュスよ、偶には打棄(うつちや)るがいい
   心驕れる愛人達を。

   おゝ、牧人等の女王様!
 彼等に酒をお与へなされ
 正午(ひる)、海水を浴びるまで
彼等の力が平静に、持ちこたへられますやうに。

(講談社文芸文庫「中原中也全訳詩集」より)
※ルビは原作にあるもののみを( )の中に入れました。編者。

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