中原中也が訳したランボー「最も高い塔の歌」Chanson de la plus haute Tourその2
中原中也訳の「最も高い塔の歌」Chanson de la plus haute Tourの
「最も高い塔」とは
そもそも何のことでしょうか?
「歌」=Chansonも気になりますが
屈従した青春、
無駄だった青春、
繊細さのために
生涯をそこなった
――と歌う詩が「最も高い塔」というタイトルを持つこと自体が
「ランボーという謎」です。
それは
詩の中にしか答えのない謎です。
その筈(はず)ですから
詩を読む中で
答えを見つけ出していくほかにありません。
◇
そのようにして
ふたたび
詩を読んでいくと……。
これに続く行の
あゝ! 心といふ心の
陶酔する時の来らんことを!
――の「陶酔」のことではないか
「最も高い塔の歌」とは
この「陶酔」、
「心と心の」「陶酔」を指すのではないか、と思えてきます。
◇
ランボーは
自らを振り返ります。
私は思つた、忘念しようと、
人が私を見ないやうにと。
いとも高度な喜びの
約束なしには
何物も私を停めないやう
厳かな隠遁よと。
――と。
これが、いつの時代か
ランボーの履歴のいつごろのことだか
断定できませんが
振り返った過去の早い時期。
それから、次の時期が、
ノートルダムの影像(イマージュ)をしか
心に持たぬ惨めなる
さもしい限りの
千の寡婦等も、
処女マリアに
祈らうといふか?
――と歌う(シャンソン)ことができる期間。
そして、
その次が
私は随分忍耐もした
決して忘れもしはすまい。
つもる怖れや苦しみは
空に向つて昨日去(い)つた。
今たゞわけも分らぬ渇きが
私の血をば暗くする。
――の時期。
そしてまた、次の時期は、
忘れ去られた
牧野ときたら
香(かをり)と毒麦身に着けて
ふくらみ花を咲かすのだ、
汚い蠅等の残忍な
翅音(はおと)も伴ひ。
――という時期。
◇
いくつかの時期を経過して
それらの過去は、
何事にも屈従した
無駄だつた青春よ、
繊細さのために
私は生涯をそこなつたのだ。
――という青春だった。
◇
であるから
あゝ! 心といふ心の
陶酔する時の来らんことを!
――と、
「最も高い塔の歌」を
俺は歌う……。
◇
「地獄の季節」「錯乱Ⅱ」の「言葉の錬金術」では
1年ほど前に歌った、
この「最も高い塔の歌」が
過去の産物になります。
俺の性格はとげとげしくなっていった。恋愛詩(ロマンス)の類の詩のなかで、俺はこの世に別れを告げていたのだ。
――という述懐になるのです。
◇
再び、では、
「この世に別れを告げていた」というのは、「死」を意味するのか?
でなければ、何に対しての別れか?
――という問いを問うことになります。
◇
その答えは
もはや
「最も高き塔の歌」の中には求められず
ランボーの行動の中に求められるだけのことになります。
*
最も高い塔の歌
何事にも屈従した
無駄だつた青春よ
繊細さのために
私は生涯をそこなつたのだ、
あゝ! 心といふ心の
陶酔する時の来らんことを!
私は思つた、忘念しようと、
人が私を見ないやうにと。
いとも高度な喜びの
約束なしには
何物も私を停めないやう
厳かな隠遁よと。
ノートルダムの影像(イマージュ)をしか
心に持たぬ惨めなる
さもしい限りの
千の寡婦等も、
処女マリアに
祈らうといふか?
私は随分忍耐もした
決して忘れもしはすまい。
つもる怖れや苦しみは
空に向つて昨日去(い)つた。
今たゞわけも分らぬ渇きが
私の血をば暗くする。
忘れ去られた
牧野ときたら
香(かをり)と毒麦身に着けて
ふくらみ花を咲かすのだ、
汚い蠅等の残忍な
翅音(はおと)も伴ひ。
何事にも屈従した
無駄だつた青春よ、
繊細さのために
私は生涯をそこなつたのだ。
あゝ! 心といふ心の
陶酔する時の来らんことを!
(講談社文芸文庫「中原中也全訳詩集」より)
※ルビは原作にあるもののみを( )の中に入れました。編者。
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