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2012年4月24日 (火)

中原中也が訳したランボー「最も高い塔の歌」Chanson de la plus haute Tourその3

中原中也訳の「最も高い塔の歌」Chanson de la plus haute Tourは
「地獄の季節」の「錯乱Ⅱ」「言葉の錬金術」の中に
「涙」
「朝の思ひ」
「飢餓の祭り」
「永遠」
「幸福」とともに引用される詩の一つです。

「地獄の季節」は
小林秀雄の翻訳で読むと、

序詞(と、ここでは呼んでおきます。リード=前文のこと)
「悪胤」
「地獄の夜」
「錯乱Ⅰ」(「狂気の処女」「地獄の夫」)
「錯乱Ⅱ」(「言葉の錬金術」)
「不可能」
「光」
「朝」
「別れ」
――という「散文詩」で構成されています。

これらは、
末尾に1873年、4月―8月という日付けがあり
1872年に作られた単独詩のアップ・バージョンの位置にあります。

中原中也とこの詩「最も高い塔の歌」との接触は

① 富永太郎が片瀬江の島に転地療養中の大正14年、
② 小林秀雄の処女批評「人生斫断家アルチュル・ランボオ」を通じて
――と、早い時期に少なくとも2度あったことが確認されています。

①は、大岡昇平が
「富永太郎――書簡を通して見た生涯と作品」の中に
小林秀雄と中原中也が富永太郎を見舞った時のことを記録し、
「最も高い塔の歌」のフレーズを巡って
具体的に交わされた会話が明かされています。

②は、小林秀雄が大正15年、
「仏蘭西文学研究」第1号に発表したランボー論で
中に「最高塔の歌」のタイトルで一部を引用、
中原中也は、
同年12月7日付けの小林宛書簡で
この論文を「面白く読んだ」などと書き送っています。

中原中也は、
早い時期に「最も高い塔の歌」に触れていたのですが
昭和2年には
「小詩論」の題で
この詩の一部を引用して
詩論を書いているほどのこだわりを見せています。

「最も高い塔の歌」の

今たゞわけも分らぬ渇きが
私の血をば暗くする。

――の行に対応したかのように

そして僕の血脈を暗くしたものは、
「対人圏の言葉」なのです。

――などと記して、
この「小詩論」の結語としているのですから、
この詩に並々ならぬ関心を寄せていたことが分かりますし、
「対人圏の言葉」とあるのは
「山羊の歌」集中の自作詩のいくつかに使われている
中原中也独特のボキャブラリーに通じています。

有名な「修羅街輓歌」のフレーズで

それにしても私は憎む、
対外意識にだけ生きる人々を。
――パラドクサルな人生よ。

――を、ただちに連想してもたいして的外れではないでしょう。

ランボーの翻訳に使うボキャブラリーと
自作創作詩に使う言葉が
相当早い時期に
中原中也の中で交錯していたことを
「最も高い塔の歌」への接触の跡に
垣間見ることができるのは
驚きです。

 *

 最も高い塔の歌

何事にも屈従した
無駄だつた青春よ
繊細さのために
私は生涯をそこなつたのだ、

あゝ! 心といふ心の
陶酔する時の来らんことを!

私は思つた、忘念しようと、
人が私を見ないやうにと。
いとも高度な喜びの
約束なしには

何物も私を停めないやう
厳かな隠遁よと。

ノートルダムの影像(イマージュ)をしか
心に持たぬ惨めなる
さもしい限りの
千の寡婦等も、

処女マリアに
祈らうといふか?

私は随分忍耐もした
決して忘れもしはすまい。
つもる怖れや苦しみは
空に向つて昨日去(い)つた。

今たゞわけも分らぬ渇きが
私の血をば暗くする。

忘れ去られた
牧野ときたら
香(かをり)と毒麦身に着けて
ふくらみ花を咲かすのだ、

汚い蠅等の残忍な
翅音(はおと)も伴ひ。

何事にも屈従した
無駄だつた青春よ、
繊細さのために
私は生涯をそこなつたのだ。

あゝ! 心といふ心の
陶酔する時の来らんことを!

(講談社文芸文庫「中原中也全訳詩集」より)
※ルビは原作にあるもののみを( )の中に入れました。編者。

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