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2012年4月25日 (水)

中原中也が訳したランボー「最も高い塔の歌」Chanson de la plus haute Tourその4

「最も高い塔の歌」Chanson de la plus haute Tourは
作者ランボー自らが
「地獄の季節」の「錯乱Ⅱ」「言葉の錬金術」の中に引用したために
より強い浸透力で世界中に広まりましたが、
日本でも小林秀雄の個性的な翻訳が
強烈なインパクトをもって伝播しました。

その小林秀雄が
「地獄の季節」の翻訳に先駆けて世に問うたのが
大正15年(昭和元年)に発表した
評論「人生斫断家アルチュル・ランボオ」でした。

ランボー批評と
同時並行的に翻訳は進められ
「小林秀雄のランボー」は浸透しました。

「最も高い塔の歌」は
このようにして
二重三重に案内され
ランボーの名前が広まるに従って広まりましたが
同時に
ランボーの「白鳥の歌」として読まれたために
ますます世界中の人々の記憶に
とどめられることになります。

ここで、
「地獄の季節」について
ランボー伝を著わした
マタラッソーとプティフィスの記録を引いておきましょう。

「地獄の季節」が
どのような「位置」にある書物であるのか、
手っ取り早く知っておいたほうがよいでしょうから。

ヴェルレーヌの言葉を借りれば、ダイヤモンドのような散文で書かれたこの「驚くべき自叙伝」は、単に一篇の詩作品であるばかりでなく、悲痛な精神的危機の証言である。これはまた「イリュミナシヨン」の鍵でもある。

近代の聖書といわれる「地獄の季節」は、ランボーの天才の絶頂を示すものだ。19歳にもならぬうちに書かれ、ベートーベンのような崇高な音楽的高揚を想わせるその驚嘆すべき頁には、天才の嵐が吹きまくっている。一条の聖なる光芒がランボーの受難史を照らしたのだ。これはおそらくフランス語で書かれた最も美しく、最も劇的な作品である。

(マタラッソー、プティフィス著、粟津則雄、渋沢孝輔訳「ランボーの生涯」筑摩叢書)

「最も高い塔の歌」をより深く読むことと
「地獄の季節」をどう読むかということとは切り離せないということになりますが
ここでは
ランボーの受難が
「地獄の季節」を書くことによって
「イリュミナシヨン」への一歩となったことを念頭に止めておきます。

ランボーが、
危機の中で聴いた
最も高い塔の歌――。

それが
どんな歌だったのかに
耳を澄ませます。

 *

 最も高い塔の歌

何事にも屈従した
無駄だつた青春よ
繊細さのために
私は生涯をそこなつたのだ、

あゝ! 心といふ心の
陶酔する時の来らんことを!

私は思つた、忘念しようと、
人が私を見ないやうにと。
いとも高度な喜びの
約束なしには

何物も私を停めないやう
厳かな隠遁よと。

ノートルダムの影像(イマージュ)をしか
心に持たぬ惨めなる
さもしい限りの
千の寡婦等も、

処女マリアに
祈らうといふか?

私は随分忍耐もした
決して忘れもしはすまい。
つもる怖れや苦しみは
空に向つて昨日去(い)つた。

今たゞわけも分らぬ渇きが
私の血をば暗くする。

忘れ去られた
牧野ときたら
香(かをり)と毒麦身に着けて
ふくらみ花を咲かすのだ、

汚い蠅等の残忍な
翅音(はおと)も伴ひ。

何事にも屈従した
無駄だつた青春よ、
繊細さのために
私は生涯をそこなつたのだ。

あゝ! 心といふ心の
陶酔する時の来らんことを!

(講談社文芸文庫「中原中也全訳詩集」より)
※ルビは原作にあるもののみを( )の中に入れました。編者。

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