中原中也が訳したランボー「彼女は埃及舞妓か?」Est-elle almée?その2
中原中也訳の「彼女は埃及舞妓か?」Est-elle almée?は
第1次形態が
「翻訳詩ファイル」に書かれた草稿「彼女は舞妓か?」で
第2次形態が
「ランボオ詩集」に収録された「彼女は埃及舞妓か?」です。
第1次形態の制作は
昭和4年~8年、
第2次形態は
昭和11年6月~12年8月と推定されていますが、
二つの訳には
大きな異同があり、
それぞれ別個に制作されたものと考えられています。
両作の違いがどんなものか
ここで
翻訳の現場に近づく意味もありますから
並べて読んでおきましょう。
◇
彼女は舞妓か?
彼女は舞妓か?……最初の青い時間(をり)に
火の花のやうに彼女は崩(くずお)れるだらう……
甚だしく華かな市(まち)が人を喘がす
晴れやかな広袤の前に!
これは美しい! これは美しい! それにこれは必要だ
――漁婦のために海賊の唄のために、
なほまた最後の仮面が剥がれてのち
聖い海の上の夜の祭のためにも!
◇
以上が第1次形態ですが
広袤(こうぼう)という漢語が使われているほかは
分かりやすい用語で
輪郭のはっきりしたイメージが喚起されます。
「広」は東西の、「袤」は南北の長さ。
したがって、面積の意味ですが、
ここでは、港の背後に広がる市街地を指すのでしょうか?
第2次形態では
「壮んな眺め」となって
抽象化が進んだ感じです。
◇
ここは
いったい
どこなのでしょう。
眠りを知らない
海の近くの街の
朝まだき。
酔いの残る体を
かかえた詩人が見た
エジプトの踊り子。
これは
幻か
夢か
海の祭の夜に
船で繰り広げられた小さな宴を
娘の眼は確かに映してたっけが……。
*
彼女は埃及舞妓か?
彼女は埃及舞妓(アルメ)か?……かはたれどきに
火の花と崩(くづほ)れるのぢやあるまいか……
豪華な都会にほど遠からぬ
壮んな眺めを前にして!
美しや! おまけにこれはなくてかなはぬ
――海女(あま)や、海賊の歌のため、
だつて彼女の表情は、消え去りがてにも猶海の
夜(よる)の歓宴(うたげ)を信じてた!
(講談社文芸文庫「中原中也全訳詩集」より)
※ルビは原作にあるもののみを( )の中に入れました。編者。
にほんブログ村:「詩集・句集」人気ランキングページへ
(↑ランキング参加中。記事がおもしろかったらポチっとお願いします。やる気がでます。)
« 中原中也が訳したランボー「彼女は埃及舞妓か?」Est-elle almée? | トップページ | 中原中也が訳したランボー「幸福」Bonheur »
「051中原中也が訳したランボー」カテゴリの記事
- 「中原中也が訳したランボー」のおわりに・その6(2012.09.10)
- 「中原中也が訳したランボー」のおわりに・その5(2012.09.09)
- 「中原中也が訳したランボー」のおわりに・その4(2012.09.05)
- 「中原中也が訳したランボー」のおわりに・その3(2012.09.04)
- 「中原中也が訳したランボー」のおわりに・その2(2012.09.03)
« 中原中也が訳したランボー「彼女は埃及舞妓か?」Est-elle almée? | トップページ | 中原中也が訳したランボー「幸福」Bonheur »
コメント