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2012年4月21日 (土)

中原中也が訳したランボー「永遠」Éternitéその4

中原中也が「永遠」Éternitéの翻訳を開始したのは
昭和4年という
興味深いデータがあります。

角川全集の編集が
便宜的に名付けた「翻訳詩ファイル」という
中原中也が残した草稿の束(たば)がありますが
そこにランボーの
「(彼の女は帰つた)」
「ブリュッセル」
「彼女は舞妓か?」
「幸福」
「黄金期」
「航海」や
ギュスタブ・カーンの詩1篇の
計7作の翻訳未定稿が記されてあります。

このファイルの
第1ページにあるのが
無題の「(彼の女は帰つた)」ですが
これが「永遠」のルフランの部分で
最終連、つまり第6連の「試訳」と推定されているのです。

このファイルは
昭和4年から8年の間に使われていたときには
大学ノートでしたが
後の「ランボオ全集」の翻訳のために
旧訳の書かれたこのノートをばらして
ホッチキスでまとめて利用したものと考証されています。

彼の女は帰つた。
何? 永遠だ。
これは行つた海だ
太陽と一緒に。
(「新編中原中也全集 第3巻 翻訳・本文篇」)
――という内容で、
「永遠」の第1次形態とされています。

また見付かつた。
何がだ? 永遠。
去(い)つてしまつた海のことさあ
太陽もろとも去(い)つてしまつた。

――となって「ランボオ詩集」に収録されたのが
現在読める第2次形態ですが
このバージョンアップの過程こそ
中原中也のランボー受容の歴史の象徴であり
日本におけるランボー翻訳史の1断面といえるほどのものです。

ランボー研究は
やがて
「地獄の季節」中に引用された詩篇を決定稿とし
それ以前に作られた詩との間に
「ジャンプ」があったという流れに定着しますが
そうした研究が浸透する以前の
中原中也や小林秀雄ら
「初期のランボー翻訳」(明治期の取り組みを考慮すれば「第2期」?)の
苦闘の跡がここに見られるということです。

この翻訳が記されたのと同一のページには
中原中也がフランス語の動詞と成句を学習した
練習筆記がぎっしりと書き込まれていますのは
この苦闘を物語る1側面です。

帝大や早稲田、慶応の仏文科や
東京外語学校、アテネ・フランセといった場での学習は
個人の血の滲むような勉強なくして
成就できませんでした。

「ランボオ詩集」の「後記」の末尾に

終りに、訳出のその折々に、教示を乞うた小林秀雄、中島健蔵、今日出海の諸兄に、厚く御礼を申述べておく。

――と中原中也が記しているのは、
個人の勉強では届かず、
折りにふれては友人・知己に助力を求めたことに
自然な敬意を表しているものに違いありません。

「永遠」の第1連と最終第6連のルフランは
このようにして訳出され
今なお、存在感たっぷりの名訳であることに変わりませんが
「ランボオ詩集」の「後記」には
「永遠」の、

繻子の色した深紅の燠よ、
それそのおまへと燃えてゐれあ
義務(つとめ)はすむといふものだ、

――と、第5連の3行を、
若干、語句を変えて引用しています。

「永遠」を
それほどに
思い入れを込めていることの意味が
少しは見えつつあります。

 *

 永遠

また見付かつた。
何がだ? 永遠。
去(い)つてしまつた海のことさあ
太陽もろとも去(い)つてしまつた。

見張番の魂よ、
白状しようぜ
空無な夜(よ)に就き
燃ゆる日に就き。

人間共の配慮から、
世間共通(ならし)の逆上(のぼせ)から、
おまへはさつさと手を切つて
飛んでゆくべし……

もとより希望があるものか、
願ひの条(すぢ)があるものか
黙つて黙つて勘忍して……
苦痛なんざあ覚悟の前。

繻子の肌した深紅の燠よ、
それそのおまへと燃えてゐれあ
義務(つとめ)はすむといふものだ
やれやれといふ暇もなく。

また見付かつた。
何がだ? 永遠。
去(い)つてしまつた海のことさあ
太陽もろとも去(い)つてしまつた。

(講談社文芸文庫「中原中也全訳詩集」より)
※ルビは原作にあるもののみを( )の中に入れました。編者。

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