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2012年5月 7日 (月)

中原中也が訳したランボー「飢餓の祭り」Fêtes de la Faimその2

「飢餓の祭り」Fêtes de la Faimとは
いったい、どんな歌=シャンソンなのでしょう?

「アンヌ、アンヌ、」とか
「Dinn! dinn! dinn! dinn!」とか

まっさきに
このフランス語の響きに
違和感をくすぐられるのですが……

俺がいま、その中にある飢餓に、
アンヌという女性の名をつけて呼び、
アンヌよ、飢餓よ、
アン=驢馬に乗って
とっとと消えろ、と
敵対するというより
やさしく語りかける内面劇が見えてきます。

そう読んでよいものか――。

飢餓の中にあるのは俺ですが
俺は飢餓に
恋人かとおぼしいアンヌの名で呼びかけます

俺の飢餓よ
アンヌ、アンヌ、
アンに乗って消えちまえ。

俺にゃあ並みの食欲なんてないのさ
あったとしても土や石っころに対してぐらいなもんさ。
ヂンヂンヂンヂン! 空気を食おうってんだ、
岩を、炭を、鉄をね。

飢餓よ、あっちへ行け。
そして、草をやれ、
音の牧場に!
昼顔の、ゆかいな毒でも
吸ってりゃいいんだ。

乞食が砕いた石っころでも喰らってろ、
教会の古びた石、
洪水の子・河原の石、
寒い谷間のパン
そんなものを食ってろ。

飢餓とは、黒い空気のどんづまりさ、
空を鳴り渡る鐘の音さ。
――俺の袖を引っ張る胃袋こそが、
不幸ってものなのさ。

土から葉っぱが出て来た。
熟した果実にありつける。
畑に俺が摘むものは
野生のチシャとかスミレだよ。

俺の飢餓よ
アンヌ、アンヌ、
アンに乗って消えちまえ。

お前は
俺がそんなことで
参るとでも思ってるのか?
飢餓よ。

「地獄の季節」中「錯乱Ⅱ」の
「言葉の錬金術」にこの詩を引用したとき
ランボーは、

俺は、沙漠を、萎(しお)れ枯れた果樹園を、色褪(あ)せた商店を、生ぬるい飲料を愛した。疲れた足を引摺り、臭い路次を過ぎ、瞑目してこの身を火の神太陽に献げた。

「将軍よ、君は崩れた堡塁に、古ぼけた大砲が残っているならば、乾いた土の塊をこめて、俺たちを砲撃してはくれまいか。すばらしい商店の飾窓を狙うんだ、サロンにぶち込むんだ。街にどろっ埃を食わせてやれ。蛇口などは皆んな錆びつかせてやれ。閨房にはどいつも焼けつくような紅玉の煙硝をつめ込んじまえ……」

ああ、羽虫は、瑠璃萵苣(るりちさ)に焦れ、旅籠屋の小便壺に酔い痴れて、一筋の光に姿を消すか。
(小林秀雄訳)

――と、前置きしています。

 *

 飢餓の祭り

  俺の飢餓よ、アンヌ、アンヌ、
   驢馬に乗つて失せろ。

俺に食慾(くひけ)があるとしてもだ
土や礫(いし)に対してくらゐだ。
Dinn! dinn! dinn! dinn! 空気を食はう、
岩を、炭を、鉄を食はう。

飢餓よ、あつちけ。草をやれ、
  音(おん)の牧場に!
昼顔の、愉快な毒でも
  吸ふがいい。

乞食が砕いた礫(いし)でも啖(くら)へ、
 教会堂の古びた石でも、
 洪水の子の磧の石でも、
 寒い谷間の麺麭でも啖へ!

 飢餓とはかい、黒い空気のどんづまり、
   空鳴り渡る鐘の音。
 ――俺の袖引く胃の腑こそ、
   それこそ不幸といふものさ。

 土から葉つぱが現れた。
 熟れた果肉にありつかう。
 畑に俺が摘むものは
 野蒿苣(のぢしや)に菫だ。

   俺の飢餓よ、アンヌ、アンヌ、
   驢馬に乗つて失せろ。

(講談社文芸文庫「中原中也全訳詩集」より)
※ルビは原作にあるもののみを( )の中に入れました。編者。

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