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2012年5月18日 (金)

中原中也が訳したランボー「海景」Marineその5

中原中也訳の「海景」Marineは、
「翻訳詩ファイル」に収集された7篇のうちの一つ
「航海」を第1次形態としますが、
これは昭和4年(1929)~8年(1933)の制作(推定)とされています。

昭和12年9月発行の
「ランボオ詩集」に収められたのが「海景」で
「航海」の第2次形態です。

ここで
第1次形態の「航海」を読んでおきます。
両作の間には
若干の変化がみられるだけなのが興味深いですね。

航海
    アルチュール・ランボー

銀と銅(あかがね)の戦車、
鋼(はがね)と銀の船首、
泡を打ち、
茨の根株を掘り返す。

曠野の行進、
干潮の大きい轍、
円を描いて東へ繰り出す、
森の柱へ、
波止場の胴へ、
角度はゴツゴツ、光の渦に。

(「新編中原中也全集」翻訳篇)

さて、「飾画篇」を読み終えるにあたって
「翻訳詩ファイル」に書かれた詩篇のうち
ランボーの詩6篇を
通しで読んでおきましょう。

(彼の女は帰つた)
        アルチュール・ランボー

彼の女は帰つた。
何? 永遠だ。
これは行つた海だ
太陽と一緒に。

ブリュッセル
        アルチュール・ランボー

          七月。レジャン街。

快きジュピター殿につゞける
葉鶏頭の花畑。
――これは常春藤の中でその青さをサハラに配る
君だと私は知つてゐる。

して薔薇と太陽の棺と葛のやうに
茲に囲はれし眼を持つ、
小さな寡婦の檻!……
             なんて
鳥の群だ、オ イア イオ、イア イオ!……
穏やかな家、古代の情熱!
ざれごとの四阿屋。
薔薇の木の叢(むら)尽きる所、蔭多きバルコン、
ジュリエットよりははるか下に。

ジュリエットは、アンリエットを呼びかへす、
千の青い悪魔が踊つてゐるかの
果樹園の中でのやうに、山の心に、
忘られない鉄路の駅に。

ギタアの上に、驟雨の楽園に
唱う緑のベンチ、愛蘭土の白よ。
それから粗末な食事場や、
子供と牢屋のおしやべりだ。

私が思ふに官邸馬車の窓は
蝸牛の毒をつくるやうだ、また
太陽にかまはず眠るこの黄楊(つげ)を。
         とにまれ
これは大変美しい! 大変! われらとやかくいふべきでない。

     ※

――この広場、どよもしなし売買ひなし、
それこそ黙つた芝居だ喜劇だ、
無限の舞台の連り、
私はおまへを解る、私はおまへを無言で讃へる。

彼女は舞妓か?
        アルチュール・ランボー

彼女は舞妓か?……最初の青い時間(をり)に
火の花のやうに彼女は崩れるだらう……

甚だしく華かな市(まち)が人を喘がす
晴れやかな広袤の前に!

これは美しい! これは美しい! それにこれは必要だ
――漁婦のために海賊の唄のために、

なほまた最後の仮面が剥がれてのち
聖い海の上の夜の祭のためにも!

幸福
        アルチュール・ランボー

 おゝ季節、おゝ砦、
 如何なる魂か欠点なき?

 おゝ季節、おゝ砦、

何物も欠くるなき幸福について、
げに私は魔的な研究をした。

ゴールの牡鶏が唄ふたびに、
おゝ生きたりし彼。

しかし私は最早羨むまい、
牡鶏は私の生を負ふた。

この魅惑! それは身も心も奪つた、
そしてすべての努力を散らした。

私の言葉に何を見出すべきか?
それは逃げさり飛びゆく或物!

 おゝ季節、おゝ砦!
 

黄金期
        アルチュール・ランボー

声の或るもの、
――天子の如き!――
厳密に聴きとれるは
私に属す、

酔と狂気とを
決して誘はない、
かの分岐する
千の問題。

悦ばしくたやすい
この旋回を知れよ、
波と草本、
それ家族の!

それからまた一つの声、
――天子の如き!――
厳密に聴きとれるは
私に属す、

そして忽然として歌ふ、
吐息の妹のやうに、
劇しく豊かな
独乙のそれの。

世界は不徳だと
君はいふか? 君は驚くか?
生きよ! 不運な影は
火に任せよ……

おお美しい城、
その生は朗か!
おまへは何時の代の者だ?
我等の祖父の
天賦の王侯の御代のか。

私も歌ふよ!
八重なる妹(いも)よ、その声は
聊かも公共的でない、
貞潔な耀きで
取り囲めよ私を。

最後に前掲の「航海」があります。

以上のうちの
「(彼の女は帰つた)」
「彼女は舞妓か?」
「幸福」
「航海」
――の4篇は「ランボオ詩集」に収録される時に
なんらかの推敲が行われ完成稿となりますが、
「ブリュッセル」
「黄金期」
――の2篇は、このまま草稿の形で残りました。

 *

 海景

銀の戦車や銅(あかがね)の戦車、
鋼(はがね)の船首や銀の船首、
泡を打ち、
茨の根株を掘り返す。

曠野の行進、
干潮の巨大な轍(あと)は、
円を描いて東の方へ、
森の柱へ波止場の胴へ、
くりだしてゐる、
波止場の稜は渦巻く光でゴツゴツだ。

(講談社文芸文庫「中原中也全訳詩集」より)
※ルビは原作にあるもののみを( )の中に入れました。編者。

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