カテゴリー

2024年1月
  1 2 3 4 5 6
7 8 9 10 11 12 13
14 15 16 17 18 19 20
21 22 23 24 25 26 27
28 29 30 31      
無料ブログはココログ

« 中原中也が訳したランボー「海景」Marineその3 | トップページ | 中原中也が訳したランボー「海景」Marineその5 »

2012年5月17日 (木)

中原中也が訳したランボー「海景」Marineその4

Marineのほかの訳を
もう少し読んでおきます。

最近の訳を読んでおこうということになると
鈴木創士、鈴村和成、宇佐美斉の訳が手近かにあるので
この3人の訳を読むことになりますが……。

まず鈴木創士の訳。
「イリュミナシオン」の中に
めずらしく「海洋図」の題で訳されてあります。

海洋図

銀と銅の戦車――
鋼鉄と銀の舳先が――
泡にぶつかり、――
茨の根株を持ち上げる。
荒地の流れと、
引き潮の巨大な轍が、
輪を描くように、東のほうへ、
森の列柱のほうへ、
埠頭の柱身のほうへと流れ去り、
その角は光の渦と衝突する。

(「ランボー全集」河出文庫)

次に
鈴村和成訳は「航海」。

航海

銀と銅の車が――
鋼鉄と銀の舳先が――
泡をたたき、――
イバラの切り株を掘り起こす。
荒れ地の潮流、
そして返す波の広大な轍が
円を描いて流れてゆく、東のほうへ、
森の支柱のほうへ、――
突堤の柱のほうへ、
そしてその角に衝突する
光の渦巻きが。

(「ランボー全集」みすず書房)

終わりに
宇佐美斉の訳「海の光景」。

海の光景

銀と銅の車と――
鋼(はがね)と銀の舳先(へさき)とが――
水泡(みなわ)を打ち、――
茨の株を持ち上げる。
荒れ地の潮流と、
引き潮の巨大な轍とが
輪を描いて流れる、東のほうへ、
森の列柱のほうへ、――
突堤の杭のほうへ、――
その角にぶつかっているのは渦巻く光だ。

(「ランボー全詩集」ちくま文庫)

時代が進み
研究が進み
翻訳も変化していくのは当たり前ですが
中原中也がランボーの翻訳に取り組みはじめた昭和初期に
ランボー研究をはじめた西条八十が
「海景」について述べていますから
ここで
それを読んでおきましょう――

「海景」では、ランボオは、その幻覚を繰りながら、二重映しのフィルムのように展開させる。これも、ロンドンへの船旅の所産なのであろう。初めて眼前に、青潮を蹴立てて進む彼の脳裡には、たまたま故郷アルデンヌの田野を、《茨の根を掘りおこして》進む馬耕の幻が泛んでくる。――

‘Les chars d'argent et de cuivre—
Les proues d'acier et d'argent—
Battent l'écume,—
Soulèvent les souches des ronces—’
《銀と銅との車――
鋼と銀との舳(へさき)――
泡をうち、――
茨の根を掘りおこす。》

あるいは、
‘Les courants de la lande,
Et les ornières immenses du reflux,
Filent circulairement vers l'est,’
《曠野の潮流と、
退き潮の巨大な轍が、
円を描いて東へ伸びる、》

 ここに存分に振り撒かれている海と土、泡沫と茨の根、曠野と潮流、退き潮と車輪の痕、森と突堤など、黒白相反する世界が幻想の中で絡み合い、この対比には、眼前の風景とそれにうちかぶせようとする幻像の構築との闘いが窺われて興趣深い。この手法は、後年のシュールレアリスムの箴(しん)をなすもので、これと同じ傾向を明らかに示すものとして「舞台面」を取り上げねばならない。

(「アルチュール・ランボオ研究」中央公論社)

以上の引用は、
第4部「イリュミナシオン」中の
第2章「実験のメモ」と題する記述の一部ですが
この章は、

詩集「イリュミナシオン」の内容は主として散文詩で、その中にどうやら詩型の残滓をとどめているのは、「海景」(Marine)、「運行」(Mouvement)の2篇に過ぎないというのがブイヤーヌ・ド・ラコストの意見である。

――と書き出される冒頭を持ちますから
大意をつかむことは大してむずかしくはないことでしょう。

「二重映しのフィルムのよう」
「ロンドンへの船旅の所産」
「眼前の風景とそれにうちかぶせようとする幻像の構築との闘い」
「海と土、泡沫と茨の根、曠野と潮流、退き潮と車輪の痕、森と突堤など、黒白相反する世界」
「シュールレアリスムの箴(しん)をなすもの」
――などの語句によって
西条八十の「海景」の読みがおよそ理解できるはずです。

この文が書かれたのは
中原中也が生きていたころではなく
戦後のようですから、
最近のランボー研究に繋がっていく位置にありますが
新しい研究は西条八十以後も
さらに続々と発表されているということは言うに及びません。

 *

 海景

銀の戦車や銅(あかがね)の戦車、
鋼(はがね)の船首や銀の船首、
泡を打ち、
茨の根株を掘り返す。

曠野の行進、
干潮の巨大な轍(あと)は、
円を描いて東の方へ、
森の柱へ波止場の胴へ、
くりだしてゐる、
波止場の稜は渦巻く光でゴツゴツだ。

(講談社文芸文庫「中原中也全訳詩集」より)
※ルビは原作にあるもののみを( )の中に入れました。編者。

にほんブログ村:「詩集・句集」人気ランキングページへ
(↑ランキング参加中。記事がおもしろかったらポチっとお願いします。やる気がでます。)

« 中原中也が訳したランボー「海景」Marineその3 | トップページ | 中原中也が訳したランボー「海景」Marineその5 »

051中原中也が訳したランボー」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く

コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。

(ウェブ上には掲載しません)

トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: 中原中也が訳したランボー「海景」Marineその4:

« 中原中也が訳したランボー「海景」Marineその3 | トップページ | 中原中也が訳したランボー「海景」Marineその5 »