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2012年6月 8日 (金)

中原中也が訳したランボー「首吊人等の踊り」Bal des pendus

Bal des pendusは
「首吊人等の踊り」と中原中也は訳し、
「ドゥエ詩帖」にある1篇。

第1連と第11連が
3字下げの形となっているのは
ベリション版の通りで
プロローグとエピローグの役割を持っています。

「首吊人等の踊り」では
訳語に独特の工夫があるのが目立ちますが
その中でも
中原中也が振ったルビが大変ユニークです。

これは
ランボーの原詩の「遊び」を
なんとかして訳そうとしたためのようですから
そこのところを理解して
「翻訳の工夫」もとっぷりと味わいたいものです。

現代表記にして
読んでみますが、
まずは原作(翻訳)と比べながら
訳語やルビのユニークさに注目してみましょう。

首吊り人らの踊り

   愛嬌のある不具者(かたはもの)=絞首台氏のそのほとり、
   踊るわ、踊るわ、昔の刺客等、
   悪魔の家来の、痩せたる刺客等、
   サラヂン幕下の骸骨たちが。

冒頭から
「不具者(かたはもの)=絞首台氏」が難解ですが
「絞首台氏」は、「絞首台さん」の意味でしょうか――。
ギロチン(断頭台)で死刑が執行されるシーンを想像すれば
似たようなイメージになるかもしれません、

ギロチンにかけられる囚人たちを
「絞首台さん」と名付けて、
「ほとり」は、「そば」「近辺」ですから
「ギロチンのそば」で踊る様子が
プロローグとなっている詩であることが見えてきます。

踊るのは、
昔の刺客ら、
悪魔の家来で、痩せこけた刺客ら、
サラジンの家来のドクロたち。

いよいよ
「死の舞踏」の幕開きです。

ピエルジバブ閣下におかれましては、ネクタイの中からお取り出しなさいました
空(くう)をにらんで格好をつける、いくつもの黒く小さなカラクリ人形、
さて、それらのおでこのあたりを、古靴の底でポンっとたたいて、
踊らされている、踊らされている、ノエル爺さんの音に合わせて!

今回はここまで。

 *

 首吊人等の踊り

   愛嬌のある不具者(かたはもの)=絞首台氏のそのほとり、
   踊るわ、踊るわ、昔の刺客等、
   悪魔の家来の、痩せたる刺客等、
   サラヂン幕下の骸骨たちが。

ビエルヂバブ閣下事には、ネクタイの中より取り出しめさるゝ
空を睨んで容子振る、幾つもの黒くて小さなからくり人形、
さてそれらの額(おでこ)の辺りを、古靴の底でポンと叩いて、
踊らしめさるゝ、踊らしめさるゝ、ノエル爺(ぢぢい)の音に合せて!

機嫌そこねたからくり人形(パンタン)事(こと)には華車(ちやち)な腕をば絡ませ合つて、
黒い大きなオルガンのやう、昔綺麗な乙女達が
胸にあててた胸当のやう、
醜い恋のいざこざにいつまで衝突(ぶつかり)合ふのです。

ウワーツ、陽気な踊り手には腹(おなか)もない
踊り狂へばなんだろとまゝよ、大道芝居はえてして長い!
喧嘩か踊りかけぢめもつかぬ!
怒(いき)り立つたるビエルヂバブには、遮二無二ヴィオロン掻きめさる!

おゝ頑丈なそれらの草履(サンダル)、磨減(すりへ)ることとてなき草履(サンダル)よ!……
どのパンタンも、やがて間もなく、大方肌著を脱いぢまふ。
脱がない奴とて困つちやをらぬ、悪くも思はずけろりとしてる。
頭蓋(あたま)の上には雪の奴めが、白い帽子をあてがひまする。

亀裂(ひび)の入(はい)つたこれらの頭に、烏は似合ひのよい羽飾り。
彼等の痩せたる顎の肉なら、ピクリピクリと慄へてゐます。
わけも分らぬ喧嘩騒ぎの、中をそはそは往つたり来たり、
しやちこばつたる剣客刺客の、厚紙(ボール)の兜は鉢合わせ。

ウワーツ、北風ピユーピユー、骸骨社会の大舞踏会の真ツ只中に!
大きい鉄のオルガンさながら、絞首台氏も吼えまする!
狼たちも吠えてゆきます、彼方(かなた)紫色(むらさきいろ)の森。
地平の果では御空が真ツ赤、地獄の色の真ツ赤です……

さても忘れてしまひたいぞえ、これら陰気な威張屋連中、
壊れかゝつたごつごつ指にて、血の気も失せたる椎骨の上
恋の念珠を爪繰る奴等、陰険(いや)な奴等は忘れたいぞえ!
味もへちまも持つてるもんかい、くたばりきつたる奴等でこそあれ!

さもあらばあれ、死人の踊の、その中央(たゞなか)で跳ねてゐる
狂つた大きい一つの骸骨、真ツ赤な空の背景の前。
息(いき)も激しく苛立ちのぼせ、後脚(あとあし)跳ねかし牡馬の如く、
硬い紐をば頸には感じ、

十(じふ)の指(および)は腰骨の上、ピクリピクリと痙攣いたし、
冷笑(ひやかしわらひ)によく似た音立て、大腿骨(こしのおほぼね)ギシギシ軋らす、
さていま一度、ガタリと跳ねる、骨の歌声、踊りの際中(さなか)、
も一度跳ねる、掛小舎で、道化が引ツ込む時するやうに。

   愛嬌のある不具者(かたはもの)=絞首台氏のそのほとり、
   踊るわ、踊るわ、昔の刺客等、
   悪魔の家来の痩せたる刺客等、
   サラヂン幕下の骸骨たちが。
                     〔一八七〇、六月〕

(講談社文芸文庫「中原中也全訳詩集」より)
※ルビは原作にあるもののみを( )の中に入れ、新漢字を使用しました。なお、本文中の「そはそは」は、原作では「そは/\」と「繰り返し記号」を使用しています。編者。

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