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2012年6月15日 (金)

中原中也が訳したランボー「タルチュッフの懲罰」Le châtiment de Tartufeその4

Le châtiment de Tartufeの日本語訳で
昭和3年に発表された大岡昇平訳が
最も早い時期の訳になるのであれば驚きですが、
断定できません。

今のところ
大岡昇平より早く訳したものが見つかりませんし
戦前の翻訳で公表されているもので
2番手が中原中也訳であるなら
これもまた驚きですが、
これも断定できません。

戦後になってからは
昭和27年発行の人文書院版「ランボオ全集」に
村上菊一郎の「「タルチュフ懲戒」がありますが、
ここでは
昭和26年に新潮文庫に入った堀口大学訳「ランボー詩集」から
「偽善者(タルチユフ)の天罰」を読んでおきましょう。

「月下の一群」で
ランボーを選択しなかった堀口大学が
戦後になってようやくまとめた同詩集は
瞬く間に版を重ね
平成23年時点で88刷という人気ぶりですから
その理由が少しは分かるかもしれません。

偽善者(タルチユフ)の天罰
堀口大学訳

世をいつわりの黒染めの僧衣(ころも)の袖(そで)に
狂おしの恋慕のほむらおしかくし
心いそいそ、行儀よく手袋かけて、気味悪いほど落着いて、
彼奴(かやつ)出掛けた、或(あ)る日のことよ、歯のない口からだらだらと、嬉(うれ)しい涎(よだれ)

彼奴(かやつ)出掛けた、或る日のことよ、――「祈らめ、いざや(オレミユス)」――
さるほどに、悪戯者(いたずらもの)が現われて、抹香(まっこう)臭い彼奴の耳を鷲摑(わしずか)み
あらん限りの雑言(ぞうごん)吐いて、あげくのはては、
冷汗(ひやあせ)びっしょり濡れた彼奴から、世をいつわりの黒染めの僧衣(ころも)をさっとはぎ取った。

天罰覿面(てきめん)!――僧衣(ころも)はさっとはぎ去られ、
重ね来た煩悩(ぼんのう)の罪の数々、数珠玉(じゅずだま)の数ほどわが身に覚えあり
偽善者上人(タルチユフしょうにん)このところ青菜に塩さ!

大あわて、息せき切って、懺悔(ざんげ)するやら、祈るやら、
袈裟(けさ)と僧衣(ころも)を奪い取り、男はさっと引きあげた、
――は、はッ! これでどうやら偽善者上人(タルチユフしょうにん)、一糸まとわぬ裸となったぞ。

戦後発表のことですから
歴史的かな遣いではなく、
文語の使用も抑えていて
どこかモダンな感じを出しています。

 *

 タルチュッフの懲罰

わくわくしながら、彼の心は、恋慕に燃えて
僧服の下で、幸福おぼえ、手袋はめて、
彼は出掛けた、或日のことに、いとやさしげな
黄色い顔して、歯欠けの口から、信心垂らし

彼は出掛けた、或日のことに――《共に祈らん(オレムス)》――
と或る意地悪、祝福された、彼の耳をば手荒に掴み
極悪の、文句を彼に、叩き付けた、僧服を
じめじめの彼の肌から引ツ剥ぎながら。

いい気味だ!……僧服の、釦は既に外(はづ)されてゐた、
多くの罪過を赦してくれた、その長々しい念珠をば
心の裡にて爪繰りながら、聖タルチュッフは真(ま)ツ蒼(さを)になつた。

ところで彼は告解してゐた、お祈りしてゐた、喘ぎながらも。
件の男は嬉々として、獲物を拉つてゆきました。
――フツフツフツ! タルチュッフ様は丸裸か。
                     〔一八七〇、七月〕

(講談社文芸文庫「中原中也全訳詩集」より)
※ルビは原作にあるもののみを( )の中に入れ、新漢字を使用しました。編者。

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