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2012年8月11日 (土)

中原中也が訳したランボー「災難」Le Mal

「災難」Le Malを
現代表記で読んでみましょう。

「新字・新かな」表記もあります。
「新字・旧かな」表記もあります。

 災難

散弾の、赤い泡沫(しぶき)が、ひもすがら
青空の果てで、鳴っている時、
その散弾を嘲笑(あざわら)っている、王の近くで
軍隊は、みるみるうちに崩れていく。

狂気の沙汰がつき砕き
幾数万の人間の血ぬれの堆積(やま)を作る時、
――哀れな死者らは、自然よおまえの夏の中、草の中、歓喜の中、
かつてこれらの人間を、作ったのもおお自然(おまえ)!――

祭壇の、緞子(どんす)の上で香(こう)を焚き
聖餐杯(せいさんはい)を前にして、笑っているのは神様だ、
ホザナの声に揺られて眠り、

悩みにすくんだ母親たちが、古い帽子のその下で
泣きながら2スー銅貨をハンカチの
中から取り出し奉納する時、開眼するのは神様だ
                〔一八七〇、十月〕

普仏戦争は
16歳のランボーに
どう映っていたのでしょうか――。

神は、王権と聖職とで固められ、
戦争は、神の名で行われるのが当たり前な
キリスト教国家同士の争いでした。

 *

 災難

霰弾の、赤い泡沫(しぶき)が、ひもすがら
青空の果で、鳴っている時、
その霰弾を嘲笑(あざわら)っている、王の近くで
軍隊は、みるみるうちに崩れてゆく。

狂気の沙汰が搗き砕き
幾数万の人間の血ぬれの堆積(やま)を作る時、
――哀れな死者等は、自然よおまえの夏の中、草の中、歓喜の中、
甞てこれらの人間を、作ったのもおお自然(おまえ)!――

祭壇の、緞子の上で香を焚き
聖餐杯を前にして、笑っているのは神様だ、
ホザナの声に揺られて睡り、

悩みにすくんだ母親達が、古い帽子のその下で
泣きながら二スウ銅貨をハンケチの
中から取り出し奉献する時、開眼するのは神様だ
                〔一八七〇、十月〕
                
※底本を角川書店「新編中原中也全集」とし、新漢字・現代かな遣いで表記しました。また、ルビは原作にあるもののみを( )の中に表示しました。編者。

<新漢字・歴史的かな遣い版>
 災難

霰弾の、赤い泡沫(しぶき)が、ひもすがら
青空の果で、鳴つてゐる時、
その霰弾を嘲笑(あざわら)つてゐる、王の近くで
軍隊は、みるみるうちに崩れてゆく。

狂気の沙汰が搗き砕き
幾数万の人間の血ぬれの堆積(やま)を作る時、
――哀れな死者等は、自然よおまへの夏の中、草の中、歓喜の中、
甞てこれらの人間を、作つたのもおゝ自然(おまえ)!――

祭壇の、緞子の上で香を焚き
聖餐杯を前にして、笑つてゐるのは神様だ、
ホザナの声に揺られて睡り、

悩みにすくんだ母親達が、古い帽子のその下で
泣きながら二スウ銅貨をハンケチの
中から取り出し奉献する時、開眼するのは神様だ
                〔一八七〇、十月〕

※底本を角川書店「新編中原中也全集」としました。ルビは原作にあるもののみを( )の中に表示しました。編者。

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