中原中也が訳したランボー「冬の思い」Rêvé pour I’hiverその2
中原中也が訳した「冬の思い」Rêvé pour I’hiverは
「新字・新かな」に表記しただけで
ほとんどひっかかりもなく読める
モダンさを帯びた作品です。
冒頭の「車」を「自動車」と取らないで
「列車」と取れば
ぼくたちが、列車のあっちこっちでキスしハグし、
隅々までやわらかなベッドと化す光景が見えます。
◇
旅する季節は冬ですが
詩の現在は秋です。
つまり
「冬になったら……」を仮定した
アバンチュールの夢想が歌われているのです。
といえば
中原中也の創作詩「湖上」がすぐさま想起されますね。
ランボーの詩の影響下に
「湖上」は作られたということなのかもしれません。
◇
冬の思い
ぼくら、冬になれば、薔薇色の列車に乗って行きましょう
中には青いクッションが、いっぱいの列車で。
ぼくら、仲よくするでしょう。することといったらキスばかり
愛の巣でやわらかになってる列車の隅々。
君は瞳を閉じるでしょう、窓から見える夕闇を
そのしかめっ面のような(夕焼け)を見ないように、
あの意地悪い異常なほどの、鬼畜のような
愚民らを見ないように。
君は頬を引っ掻かれたとでも思うでしょう。
キスが、ちょろりと、狂ったクモのように、
君の首すじを走るでしょうから。
君はぼくに言うでしょう、「探して」と、頭をかしげて、
ぼくら、クモの奴らを探すには、ずいぶん、時間がかかるでしょう。
――そいつは、まったくよく駆け回るから。
1870年10月7日、車中で。
◇
秋に、冬の旅を夢想する――。
クモが現われ、恋人の首すじを走るかと思えば、
それはキスの象徴表現だった――。
ロマンスにもクセがあります。
恋愛詩といってもよいでしょうし
放浪詩篇ともいえる詩ですが
ランボーの仕掛けは
分類を超えるものがあります。
*
冬の思い
僕等冬には薔薇色の、車に乗って行きましょう
中には青のクッションが、一杯の。
僕等仲良くするでしょう。とりとめもない接唇の
巣はやわらかな車の隅々。
あなたは目をば閉じるでしょう、窓から見える夕闇を
その顰め面を見まいとて、
かの意地悪い異常さを、鬼畜の如き
愚民等を見まいとて。
あなたは頬を引ッ掻かれたとおもうでしょう。
接唇(くちづけ)が、ちょろりと、狂った蜘蛛のように、
あなたの頸を走るでしょうから。
あなたは僕に云うでしょう、『探して』と、頭かしげて、
僕等蜘蛛奴(め)を探すには、随分時間がかかるでしょう、
――そいつは、よっぽど駆けまわるから。
一八七〇、十月七日、車中にて。
※底本を角川書店「新編中原中也全集」とし、新漢字・現代かな遣いで表記しました。また、ルビは原作にあるもののみを( )の中に表示しました。編者。
◇
<新漢字・歴史的かな遣い版>
冬の思ひ
僕等冬には薔薇色の、車に乗つて行きませう
中には青のクッションが、一杯の。
僕等仲良くするでせう。とりとめもない接唇の
巣はやはらかな車の隅々。
あなたは目をば閉ぢるでせう、窓から見える夕闇を
その顰め面を見まいとて、
かの意地悪い異常さを、鬼畜の如き
愚民等を見まいとて。
あなたは頬を引ツ掻かれたとおもふでせう。
接唇(くちづけ)が、ちよろりと、狂つた蜘蛛のやうに、
あなたの頸を走るでせうから。
あなたは僕に云ふでせう、『探して』と、頭かしげて、
僕等蜘蛛奴(め)を探すには、随分時間がかかるでせう、
――そいつは、よつぽど駆けまはるから。
一八七〇、十月七日、車中にて。
※底本を角川書店「新編中原中也全集」としました。ルビは原作にあるもののみを( )の中に表示しました。編者。
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