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2012年8月24日 (金)

中原中也が訳したランボー「ソネット」Sonnet

「ソネット」Sonnetは
中原中也が「翻訳詩」と題して使用していた大学ノートに
自筆で書かれている作品です。

この大学ノートは
「ノート小年時」と同種のノートで
後に角川全集の編集委員により
「ノート翻訳詩」と呼ばれ、定着しました。

66枚、132ページが残るほかに
別のノートから1枚、2ページが添付されていますから
134ページを「ノート翻訳詩」と呼びます。

タイトルに続くエピグラフは
ポール・ド・カサニャックというボナパルティストが
日刊新聞「祖国」に寄せた1870年7月16日付けの記事を要約したもので
ランボーはこの記事が
フランス革命の犠牲者の名を持ち出して
ナポレオン3世のプロシアへの宣戦布告を正当化する
プロパガンダをねらったものと見て怒り、
この詩を作成したものといわれています。

詩の中に「ヴァルミィの死者」とありますが、
「バルミーの戦い」は
高校世界史の教科書で習った記憶がよみがえってくる
有名な戦いですね。

フランス革命政府の国民軍(サンキュロット)が
初めて外国の軍隊と戦って勝利したのが
1792年9月20日のバルミーの戦いでした。
この戦いで亡くなった犠牲者もおびただしく
その犠牲者の栄光や無念さを踏みにじる記事を
ランボーは許せなかったのでしょう。

フルールの死者は、
1794年6月26日にオーストリア軍に勝利したフルーリュスの戦い、
イタリイの死者は、
ナポレオン指揮下のフランス軍が、オーストリア軍に連勝した1796年のイタリア戦役のこと。

フランス革命からナポレオン政権初期の戦いの死者たちへ
ランボーは特別に敬意の眼差しを向けていたといえるのでしょうか。

中原中也の訳は
未完成稿のためか、
下(もと)、眼(まなこ)の2語に
ルビが振られているだけで、
フィニッシュ・ワークを加えていない感じが
全篇を通じて残っています。

 *

 ソネット   アルチュール・ランボー

       七十の仏蘭西人、ナポレオン主義者、共和党員、
       九十二年に於けるあなたがたの父親達を思い起す
       が好い……    (Paul Cassagnac.Le Pays.)

九十二年と九十三年との死者たち
自由の強き接唇に蒼ざめはてし、
鎮めよ、
汝等が木靴の下(もと)に。

嵐の中にて大いなる恍惚を知る人、
あなたがたの真情は襤褸の下の愛で翔ける、
おお、『死』の播いた兵卒、それらを再生せしむべく
古き畑を与うなる高貴な情人、死。

汚されたすべての名誉を血をもて濯いだあなたがた、
ヴァルミィの死者、フルールの死者、イタリイの死者、
優しき蔭ある眼(まなこ)の千のキリストよ、

共和の名に於て我々はあなたがたを眠らせよう、
棒杭の前での如く国王の前に跪く我々に、
カサニャックの同勢はあなたがたのことを想い出させる!

※底本を角川書店「新編中原中也全集」とし、新字・新かなで表記しました。また、ルビは原作にあるもののみを( )の中に表示しました。編者。

<新漢字・歴史的かな遣いによる>
 ソネット   アルチュール・ランボー

       七十の仏蘭西人、ナポレオン主義者、共和党員、
       九十二年に於けるあなたがたの父親達を思ひ起す
       が好い……    (Paul Cassagnac.Le Pays.)

九十二年と九十三年との死者たち
自由の強き接唇に蒼ざめはてし、
鎮めよ、
汝等が木靴の下(もと)に。

嵐の中にて大いなる恍惚を知る人、
あなたがたの真情は襤褸の下の愛で翔ける、
おお、『死』の播いた兵卒、それらを再生せしむべく
古き畑を与ふなる高貴な情人、死。

汚されたすべての名誉を血をもて濯いだあなたがた、
ヴァルミィの死者、フルールの死者、イタリイの死者、
優しき蔭ある眼(まなこ)の千のキリストよ、

共和の名に於て我々はあなたがたを眠らせよう、
棒杭の前での如く国王の前に跪く我々に、
カサニャックの同勢はあなたがたのことを想出させる!

※底本を角川書店「新編中原中也全集」としました。ルビは原作にあるもののみを( )の中に表示しました。編者。

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