ひとくちメモ・鳥が飛ぶ虫が鳴く・中原中也の詩10「療養日誌・千葉寺雑記(1937年)」ほか
(前回からつづく)
未発表詩篇の残り「療養日誌・千葉寺雑記(1937年)」と
「草稿詩篇(1937年)」に出てくる鳥獣虫魚(動物)を見ましょう。
あと11篇です。
◇
<療養日誌・千葉寺雑記(1937年)>
「雨が降るぞえ」
隣りの、牛も、もう寝たか、
ちっとも、藁(わら)のさ、音もせぬ。
牛も、寝たよな、病院の、宵、
たんたら、らららら、雨が、降る。
<草稿詩篇(1937年)>
「春と恋人」
蜆(しじみ)や鰯(いわし)を商(あきな)う路次の
びしょ濡れの土が歌っている時、
「夏と悲運」
大人となった今日でさえ、そうした悲運はやみはせぬ。
夏の暑い日に、俺は庭先の樹の葉を見、蝉を聞く。
◇
動物だけを列記しますと、
牛
蜆(しじみ)
鰯(いわし)
蝉
――となります。
◇
草稿として残された「晩年の」1937年の詩篇に
「蝉」が現われるのも暗示的ですね。
蛙が声の限りを尽くして鳴くのに似て
蝉が鳴いているほかになんにもない! と「蝉」の中で歌われた蝉が
ここにも登場するのです。
(この項終わり)
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