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2013年3月 6日 (水)

ひとくちメモ・中原中也の詩に出てくる「人名・地名」3・「生前発表詩篇」から

(前回からつづく)

古代ギリシアに飛んだり
赤穂浪士の江戸に飛んだり
ベルレーヌやボードレールをひっぱったり
親交のある知人へオマージュを贈ったり
……
本文内容もそうですが
献辞や序詞や注釈に登場する人名などから
詩人が「重心」をおいていた関心が理解できるのかもしれません。

これらはすべて「詩」のためのものでした。
その逆ではありません。

これらが「教養」や「知識」や「学問」でないことも
繰り返して述べるまでもないことでしょう。

次に「生前発表詩篇」に現われる
「人名」や「地名」などの固有名詞を見ていきます。

<生前発表詩篇>

我が祈り
    小林秀雄に
※「小林秀雄」

ピチベの哲学

――あの月の中にはな、
色蒼(あお)ざめたお姫様がいて………
それがチャールストンを踊っているのだ。

チョンザイチョンザイピーフービー
チャールストンというのはとてもあのお姫様が踊るような踊りではないけれども、
※「チャールストン」「ピチベ」

夏の明方年長妓が歌った
       ――小竹の女主人(ばばあ)に捧ぐ 
 
※「小竹の女主人(ばばあ)」

童 女

飛行機虫の夢をみよ、
クリンベルトの夢をみよ。
※「クリンベルト」

現代と詩人

私は古き代の、英国(イギリス)の春をかんがえる、春の訪(おとず)れをかんがえる。
私は中世独逸(ドイツ)の、旅行の様子をかんがえる、旅行家の貌(かお)をかんがえる。
私は十八世紀フランスの、文人同志の、田園の寓居(ぐうきょ)への訪問をかんがえる。

今晩は、また雨だ。小笠原沖には、低気圧があるんだそうな。
小笠原沖も、鹿児島半島も、行ったことがあるような気がする。

さあさあ僕は、詩集を読もう。フランスの詩は、なかなかいいよ。
※「英国(イギリス)」「独逸(ドイツ)」「フランス」「小笠原沖」「鹿児島半島」

幻 想
 
 草には風が吹いていた。
 出来たてのその郊外の駅の前には、地均機械(ローラー・エンジン)が放り出されてあった。その
そばにはアブラハム・リンカン氏が一人立っていて、手帳を出して何か書き付けている。
(夕陽に背を向けて野の道を散歩することは淋しいことだ。)
「リンカンさん」、私は彼に話しかけに近づいた。

 やがてリンカン氏は、私がひとなつっこさのほか、何にも持合(もちあ)わぬのであることをみてと
った。
※「アブラハム・リンカン氏」「リンカンさん」「リンカン氏」

北沢風景
※「北沢」

道修山夜曲
※「道修山」

道化の臨終(Etude Dadaistique)

野辺(のべ)の草葉に 盗賊の、
疲れて眠る その腰に、
隠元豆(いんげんまめ)の 刀あり、
これやこの 切れるぞえ、
と 戸の面(おもて)、丹下左膳(たんげさぜん)がこっち向き、
※「丹下左膳(たんげさぜん)」

「地名・人名」だけを列記すると
「小林秀雄」
「ピチベ」
「小竹の女主人(ばばあ)」
「クリンベルト」
「英国(イギリス)」
「独逸(ドイツ)」
「フランス」
「小笠原沖」
「鹿児島半島」
「アブラハム・リンカン氏」
「リンカンさん」
「リンカン氏」
「北沢」
「道修山」
「丹下左膳(たんげさぜん)」
――となります。

「生前発表詩篇」は40篇(短歌を除く)あります。
このうちの9篇に「地名・人名」は現われました。
2割2分強といった比率です。

本文中に現われるものは4篇だけで
他のすべては「タイトル」「献呈相手」「序詞」の中に現われるものでした。
それが「小林秀雄」「ピチベ」「小竹の女主人(ばばあ)」「北沢」「道修山」です。

「ピチベ」や「クリンベルト」は
「地名・人名」ではないかもしれません。
中原中也が使った「謎(なぞ)の言葉」ですが
可能性としてここに入れておきました。

(つづく)

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