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2013年4月28日 (日)

ひとくちメモ・中原中也の詩に出てくる「人名・地名」28・まとめ22

(前回からつづく)

思いつきで
中原中也の詩に現われる「地名・人名」についてコメントしてきました。
飛ばしてしまったり
簡単に済ませてしまったものがあることをご容赦願います。

詩の中に現われない場所(地名)や人名は
ほかに数え切れないほどあったに違いありませんが
詩人が、詩の要請から固有名を詩語にしたのには
特別の愛(着)があったからであろうことが推測されます。

読み返してみて
【安原喜弘】を【青木三造】に焦点を当て過ぎた案内になっていることに気づきました。

【安原喜弘】は「山羊の歌」の最終章「羊の歌」の冒頭詩「羊の歌」が献呈されている親友です。
「白痴群」が廃刊し同人たちが詩人から離反していった後にも
詩人の最も近くにあって第1詩集「山羊の歌」の出版をサポートしたことはよく知られています。

最終章「羊の歌」の前にある章「秋」に「修羅街輓歌」があり
こちらは【関口隆克】への献呈詩ですが
「山羊の歌」の最終部に安原喜弘と関口隆克への献呈詩があることには
大きな意味があるようなので
最後にそのことにふれておきましょう。

「山羊の歌」にある献呈詩の相手は
河上徹太郎「ためいき」
内海誓一郎「更くる夜」
阿部六郎「つみびとの歌」
関口隆克「修羅街輓歌」
安原喜弘「羊の歌」
――といううちわけですが
終わりの二人は「特別な中でも特別な友人」ということがわかってきました。

それを紹介する前に
この献呈詩2作を読んでおきます。

修羅街輓歌
       関口隆克に

   序 歌

忌(いま)わしい憶(おも)い出よ、
去れ! そしてむかしの
憐(あわれ)みの感情と
ゆたかな心よ、
返って来い!

  今日は日曜日
  椽側(えんがわ)には陽が当る。
  ――もういっぺん母親に連れられて
  祭の日には風船玉が買ってもらいたい、
  空は青く、すべてのものはまぶしくかがやかしかった……

     忌わしい憶い出よ、
     去れ!
        去れ去れ!

   Ⅱ 酔 生(すいせい)

私の青春も過ぎた、
――この寒い明け方の鶏鳴(けいめい)よ!
私の青春も過ぎた。

ほんに前後もみないで生きて来た……
私はあんまり陽気にすぎた?
――無邪気な戦士、私の心よ!

それにしても私は憎む、
対外意識にだけ生きる人々を。
――パラドクサルな人生よ。

いま茲(ここ)に傷つきはてて、
――この寒い明け方の鶏鳴よ!
おお、霜にしみらの鶏鳴よ……

   Ⅲ 独 語(どくご)

器(うつわ)の中の水が揺れないように、
器を持ち運ぶことは大切なのだ。
そうでさえあるならば
モーションは大きい程いい。

しかしそうするために、
もはや工夫を凝(こ)らす余地もないなら……
心よ、
謙抑(けんよく)にして神恵(しんけい)を待てよ。

   Ⅳ

いといと淡き今日の日は
雨蕭々(しょうしょう)と降り洒(そそ)ぎ
水より淡き空気にて
林の香りすなりけり。

げに秋深き今日の日は
石の響きの如(ごと)くなり。
思い出だにもあらぬがに
まして夢などあるべきか。

まことや我(われ)は石のごと
影の如くは生きてきぬ……
呼ばんとするに言葉なく
空の如くははてもなし。

それよかなしきわが心
いわれもなくて拳(こぶし)する
誰をか責むることかある?
せつなきことのかぎりなり。

羊の歌
        安原喜弘に

   Ⅰ 祈 り

死の時には私が仰向(あおむ)かんことを!
この小さな顎(あご)が、小さい上にも小さくならんことを!
それよ、私は私が感じ得なかったことのために、
罰されて、死は来たるものと思うゆえ。

ああ、その時私の仰向かんことを!
せめてその時、私も、すべてを感ずる者であらんことを!

   Ⅱ

思惑(おもわく)よ、汝(なんじ) 古く暗き気体よ、
わが裡(うち)より去れよかし!
われはや単純と静けき呟(つぶや)きと、
とまれ、清楚(せいそ)のほかを希(ねが)わず。

交際よ、汝陰鬱(いんうつ)なる汚濁(おじょく)の許容よ、
更(あらた)めてわれを目覚ますことなかれ!

われはや孤寂(こじゃく)に耐えんとす、
わが腕は既(すで)に無用の有(もの)に似たり。

汝、疑いとともに見開く眼(まなこ)よ
見開きたるままに暫(しば)しは動かぬ眼よ、
ああ、己(おのれ)の外(ほか)をあまりに信ずる心よ、

それよ思惑、汝 古く暗き空気よ、
わが裡より去れよかし去れよかし!
われはや、貧しきわが夢のほかに興(きょう)ぜず

   Ⅲ

     我が生は恐ろしい嵐のようであった、
     其処此処に時々陽の光も落ちたとはいえ。
                    ボードレール

九歳の子供がありました
女の子供でありました
世界の空気が、彼女の有であるように
またそれは、凭(よ)っかかられるもののように
彼女は頸(くび)をかしげるのでした
私と話している時に。

私は炬燵(こたつ)にあたっていました
彼女は畳に坐っていました
冬の日の、珍(めずら)しくよい天気の午前
私の室には、陽がいっぱいでした
彼女が頸かしげると
彼女の耳朶(みみのは)陽に透(す)きました。

私を信頼しきって、安心しきって
かの女の心は密柑(みかん)の色に
そのやさしさは氾濫(はんらん)するなく、かといって
鹿のように縮かむこともありませんでした
私はすべての用件を忘れ
この時ばかりはゆるやかに時間を熟読翫味(じゅくどくがんみ)しました。

   Ⅳ

さるにても、もろに佗(わび)しいわが心
夜(よ)な夜なは、下宿の室(へや)に独りいて
思いなき、思いを思う 単調の
つまし心の連弾(れんだん)よ……

汽車の笛(ふえ)聞こえもくれば
旅おもい、幼(おさな)き日をばおもうなり
いなよいなよ、幼き日をも旅をも思わず
旅とみえ、幼き日とみゆものをのみ……

思いなき、おもいを思うわが胸は
閉(と)ざされて、醺生(かびは)ゆる手匣(てばこ)にこそはさも似たれ
しらけたる脣(くち)、乾きし頬(ほう)
酷薄(こくはく)の、これな寂莫(しじま)にほとぶなり……

これやこの、慣れしばかりに耐えもする
さびしさこそはせつなけれ、みずからは
それともしらず、ことように、たまさかに
ながる涙は、人恋(ひとこ)うる涙のそれにもはやあらず……

 

今回はここまで。

(つづく)

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