ひとくちメモ「一筆啓上、安原喜弘様」昭和7年9月23日・その5
(前回からつづく)
「詩人の魂の動乱」と安原が名付けたものは何だったのか――。
もう少し、詳しく見ておきましょう。
◇
「手紙49 9月23日」(新全集は「111」)に加えた安原のコメントをよく読むと
「困乱の徴」
「夢と現実と、具体と概念とは魂の中にその平衡を失って混乱に陥り、具体は概念によって絶えず脅迫せられた」
「神経衰弱」
「全霊を蔽う根強い強迫観念」
「家も木も、瞬く星も隣人も、街角の警官も親しい友人も、今すべてが彼に向い害意を以て囁き始めた」
「風が囁き小鳥が囁き、遠くの方で犬すらも詩人に向って鳴く」
「森羅万象すべてが今声なき声を語りだした」
「魂の葛藤」
「遠くヨーロッパの声々」
「幻聴」
「妄念」
――などの言葉が見られますが
「神経衰弱」というよりか「魂の動乱時代」と捉えているところに
安原の独自な見方があるようです。
「幻聴」「妄念」は、その核心にある現象だったといっているのかもしれません。
◇
「幻聴」「妄念」を実際目撃したのは
高森文夫
弟の高森敦夫
高森兄弟の叔母(下宿の主婦)
私=安原。
ほかにも
詩人が接した人々は
その激突の激しさと頻度を記憶している(はず)――などと記しています。
◇
私達は刻々に去来する彼の幻聴と戦い、想念と戦い、根気よくその一つ一つを捉え、それを解明し、彼を説得するのであるが、彼の納得は永くは続かなかった。
◇
そして、戦場へ踏み込んでいった。
詩人がそこで戦わせたものこそ
「詩」であったはずでしたが……。
◇
今回はここまで。
(つづく)
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