ひとくちメモ「一筆啓上、安原喜弘様」昭和8年8月18日ほか
(前回からつづく)
昭和8年の後半期に
中原中也が安原喜弘に宛てた手紙には
「紀元」に関する記述がない時はないといえるほどに
詩人は「紀元」に精力を注ぎました。
充実感があふれ
意気軒昂(けんこう)とした詩人の様子がうかがえます。
◇
「手紙65 8月18日」
「手紙66 9月18日」
「手紙67 11月2日」
「手紙68 11月10日」
――と、手紙なのですから「断続」ですが
一つの「テーマ」が続きます。
「紀元」の活動ということで
ざっと目を通しておきましょう。
11月に詩人はいったん帰省します。
この帰省はかねて進んでいた自身の結婚のためでした。
帰省先の山口からも「紀元」に触れています。
◇
「手紙65 8月18日 (封書・速達)」 大森・北千束
明日はよほど寝坊しそうなので、これにて。
明日(19日)「こころ」での出版記念会には(この間いなかった同人4、5名と)「青い馬」の連中というのも4、5名来る筈ですから、出席されればよいと思います 芥川の甥なぞも来るでしょう。僕は行きます。
猶、今度の号は僕が編輯しますから、何卒何なりと書いてください。25日の午前中に僕まで届けば結構です。
明晩は、ワルプルギスの酒場がおっぱじまるでしょう。僕はみんなの今迄の仲間をよく知りませんので、みんなの話をきいてもわからないことがよくありますので、新顔が7、8名来そうだとあっては、行くことにしました。
とりあえず右まで
18日夜 中也
◇
「手紙66 9月18日 (はがき)」 大森・北千束
昨晩は失敬しました。
うっかりしていましたが、野口は毎日勤めていますので、夜7時以後か、日曜日にしか行けないのですが、夜、編輯主任の私宅へでも出向くというようなことは出来ないでしょうか。僕が代理ということになって行きましょうか。明日ともかく電話をかけましょうか、お午頃です。
英倫にはがきを出しておきました
古谷に寄贈するよう発送部に云っておきました
18日
◇
「手紙67 11月2日 (はがき)」
立つ時には、色々とどうもありがとうございました
汽車は随分ガラ空きで、楽でした 例のアブサンは、杏仁水(きょうにんすい)と糖酎の混合液であること、一人でシミジミ飲んでいると分るのでした。胸がわるくなって来て、あの瓶の、3分の1も飲めませんでした
今加藤の小説読みました 面白いですけれど、なんか気持ばかり見えるといったふうの点は、物足りなく思いました。
田舎は、稲が刈られんばかりで、その上を風が吹いております。東京よりは、寒いようです。
では又、
◇
「手紙68 11月10日 (はがき)」 山口市・湯田
御無沙汰しました お変りありませんか
紀元の12月号まだ印刷屋にも廻っていない由云って来ましたが、出せるものならもう2、3号は出したいものと思います
僕女房貰うことにしましたので 何かと雑用があり 来ていただくことが出来ません 上京は来月半ば頃になるだろうと思います
ランボオの書簡とコルビエールの詩を少しと訳しました 自分の詩も三つ四つ書きましたが、書直して送る勇気が出る程のものではありません
お天気の好い日は、野道を歩きますが、まぶしくて、眼の力が弱ったことを感じます
コルビエールの訳詩を一つ書きます
(※講談社文芸文庫「中原中也の手紙」より。「文頭1字下げ」を排除し、「洋数字」に変え、「行空き」を加えたりしています。編者。)
◇
今回はここまで。
(つづく)
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