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2013年9月26日 (木)

ひとくちメモ「白痴群」前後・「片恋」の詩2「詩友に」その2

(前回からつづく)

「詩友に」は
「無題」の第3節(Ⅲ)を独立させたものです。
それが「白痴群」の創刊号に
「寒い夜の自我像」とともに発表されました。

そのために
「詩友に」というタイトルを持つ詩を
「中原中也全集」の中に見つけることはできません。

しかし、「白痴群」創刊号に発表した詩ということで
「白痴群のマニフェスト」としての位置を与えられた
重要な作品であることに違いはありません。

いま、「詩友に」の部分を
「無題」から取り出してみます。

かくは悲しく生きん世に、なが心
かたくなにしてあらしめな。
われはわが、したしさにはあらんとねがえば
なが心、かたくなにしてあらしめな。

かたくなにしてあるときは、心に眼(まなこ)
魂に、言葉のはたらきあとを絶つ
なごやかにしてあらんとき、人みなは生れしながらの
うまし夢、またそがことわり分ち得ん。

おのが心も魂も、忘れはて棄て去りて
悪酔の、狂い心地に美を索(もと)む
わが世のさまのかなしさや、

おのが心におのがじし湧(わ)きくるおもいもたずして、
人に勝(まさ)らん心のみいそがわしき
熱を病(や)む風景ばかりかなしきはなし。

Ⅲのところに
「詩友に」とタイトルがあったわけです。

「な」が泰子、
「われ」が詩人であることを見逃さなければ
詩人が泰子に直接訴えた詩であることが見えてくるでしょうか。

「かたくなにしてあらしめな」は
「頑(かたく)なであってほしくない」の意味です。

詩友というと
友というより、詩の同志(同士)のイメージですが
内容は「愛の告白」に近く
「言葉を失って」「熱病を病んだ現代人の」「悲しさ」を歌うようでいながら
おおっぴらにこんな「告白」をできたのは
泰子への愛が揺るぎないものだったからでしょうか。

「詩友に」は
あらかじめ作られてあった長い詩「無題」が
「白痴群」に発表されたときに
第3節だけのソネット(4―4―3―3)として独立したものです。

隠された(未発表だった)ほかの節が
「山羊の歌」では
全行が現われました。

現われたその全容もまた
延々と「告白」のようでありながら
「告白」を遥かに超えて
遠大な「幸福論」のようなものが繰り広げられていきます。

「汚れっちまった悲しみに……」の次に配置された意図が
ここで見えてきます。

今回はここまで。

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