ひとくちメモ「白痴群」前後・「片恋」の詩2「詩友に」その2
(前回からつづく)
「詩友に」は
「無題」の第3節(Ⅲ)を独立させたものです。
それが「白痴群」の創刊号に
「寒い夜の自我像」とともに発表されました。
そのために
「詩友に」というタイトルを持つ詩を
「中原中也全集」の中に見つけることはできません。
しかし、「白痴群」創刊号に発表した詩ということで
「白痴群のマニフェスト」としての位置を与えられた
重要な作品であることに違いはありません。
いま、「詩友に」の部分を
「無題」から取り出してみます。
◇
Ⅲ
かくは悲しく生きん世に、なが心
かたくなにしてあらしめな。
われはわが、したしさにはあらんとねがえば
なが心、かたくなにしてあらしめな。
かたくなにしてあるときは、心に眼(まなこ)
魂に、言葉のはたらきあとを絶つ
なごやかにしてあらんとき、人みなは生れしながらの
うまし夢、またそがことわり分ち得ん。
おのが心も魂も、忘れはて棄て去りて
悪酔の、狂い心地に美を索(もと)む
わが世のさまのかなしさや、
おのが心におのがじし湧(わ)きくるおもいもたずして、
人に勝(まさ)らん心のみいそがわしき
熱を病(や)む風景ばかりかなしきはなし。
◇
Ⅲのところに
「詩友に」とタイトルがあったわけです。
「な」が泰子、
「われ」が詩人であることを見逃さなければ
詩人が泰子に直接訴えた詩であることが見えてくるでしょうか。
「かたくなにしてあらしめな」は
「頑(かたく)なであってほしくない」の意味です。
詩友というと
友というより、詩の同志(同士)のイメージですが
内容は「愛の告白」に近く
「言葉を失って」「熱病を病んだ現代人の」「悲しさ」を歌うようでいながら
おおっぴらにこんな「告白」をできたのは
泰子への愛が揺るぎないものだったからでしょうか。
◇
「詩友に」は
あらかじめ作られてあった長い詩「無題」が
「白痴群」に発表されたときに
第3節だけのソネット(4―4―3―3)として独立したものです。
隠された(未発表だった)ほかの節が
「山羊の歌」では
全行が現われました。
現われたその全容もまた
延々と「告白」のようでありながら
「告白」を遥かに超えて
遠大な「幸福論」のようなものが繰り広げられていきます。
「汚れっちまった悲しみに……」の次に配置された意図が
ここで見えてきます。
◇
今回はここまで。
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