ひとくちメモ「白痴群」前後・幻の詩集・8「詩人の嘆き」
(前回からつづく)
「ノート1924」には
(かっては私も)のほかに
「浮浪歌」
「涙語」
「無題(ああ雪はさかしらに笑い)」
「無題(緋のいろに心はなごみ)」
(秋の日を歩み疲れて)
「秋の日」
――が書かれてあり
これらも「処女詩集」のための原稿の可能性がありますが
ここでは、「第1詩集用清書原稿」を読み進めます。
◇
大岡昇平は
「詩人の嘆き」を「処女詩集序」「聖浄白眼」などとともに
「山羊の歌」の「羊の歌」、
「在りし日の歌」の「蛙声」に似た位置づけと記しています。
詩人のメッセージが込められた詩ということです。
その意味で「詩人の嘆き」は
詩集のプロローグ(序)やエピローグ(跋・結語)の役割があり
「処女詩集序」と響き合っていると考えてよいでしょう。
「序」や「跋(ばつ)」と同じ位置づけなのですから
「嘆き」というタイトルには「反意」「逆説」があり
「宣言」と読み替えることができそうですし
そう読まないことには真意を読み外します。
中身はどうでしょうか?
◇
詩人の嘆き
私の心よ怒るなよ、
ほんとに燃えるは独りでだ、
するとあとから何もかも、
夕星(ゆうづつ)ばかりが見えてくる。
マダガスカルで出来たという、
このまあ紙は夏の空、
綺麗に笑ってそのあとで、
ちっともこちらを見ないもの。
ああ喜びや悲しみや、
みんな急いで逃げるもの。
いろいろ言いたいことがある、
神様からの言伝(ことづて)もあるのに。
ほんにこれらの生活(なりわい)の
日々を立派にしようと思うのに、
丘でリズムが勝手に威張って、
そんなことは放ってしまえという。
◇
タイトルに詩人のねらいがあり
それが「反意」や「「逆説」であることがわかっているのですから
そう読めばよいのですが
この詩の本文(中身)もまた「小難しい」と言わざるをえません。
マイナーです。
あらかじめ読者を限定してしまいかねないのは
「処女詩集序」と同じです。
◇
これもダダではないけれど
ダダを抜けようとして
その心と尻尾(しっぽ)を隠しもしない。
七五を基調にして破調を随所に
「しゃべり言葉」でゆるーく歌っている
そんな感じです。
中に
いろいろ言いたいことがある
神様からの言伝(ことづて)もある
――とあるのが「本意」らしいのですが
この「しゃべり言葉」にせっかくの「神」は埋れています。
そのうえ
「神様からの言伝」は
「リズム」に邪魔されているのです……
「リズムの詩人」などと呼ばれることもある詩人が
リズムに対して他人行儀なのは
「神」と「リズム」を比較するわけにはいかないからでしょうか。
◇
「宣言」にしては
パワー不足は否めませんが
しかし……。
「ゆるい歌いぶり」の裏に
詩人の「嘆き」もほの見えます。
◇
今回はここまで。
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