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2013年9月11日 (水)

ひとくちメモ「白痴群」前後・幻の詩集・8「詩人の嘆き」

(前回からつづく)

「ノート1924」には
(かっては私も)のほかに
「浮浪歌」
「涙語」
「無題(ああ雪はさかしらに笑い)」
「無題(緋のいろに心はなごみ)」
(秋の日を歩み疲れて)
「秋の日」
――が書かれてあり
これらも「処女詩集」のための原稿の可能性がありますが
ここでは、「第1詩集用清書原稿」を読み進めます。

大岡昇平は
「詩人の嘆き」を「処女詩集序」「聖浄白眼」などとともに
「山羊の歌」の「羊の歌」、
「在りし日の歌」の「蛙声」に似た位置づけと記しています。
詩人のメッセージが込められた詩ということです。

その意味で「詩人の嘆き」は
詩集のプロローグ(序)やエピローグ(跋・結語)の役割があり
「処女詩集序」と響き合っていると考えてよいでしょう。

「序」や「跋(ばつ)」と同じ位置づけなのですから
「嘆き」というタイトルには「反意」「逆説」があり
「宣言」と読み替えることができそうですし
そう読まないことには真意を読み外します。

中身はどうでしょうか?

詩人の嘆き
 
私の心よ怒るなよ、
ほんとに燃えるは独りでだ、
するとあとから何もかも、
夕星(ゆうづつ)ばかりが見えてくる。

マダガスカルで出来たという、
このまあ紙は夏の空、
綺麗に笑ってそのあとで、
ちっともこちらを見ないもの。

ああ喜びや悲しみや、
みんな急いで逃げるもの。
いろいろ言いたいことがある、
神様からの言伝(ことづて)もあるのに。

ほんにこれらの生活(なりわい)の
日々を立派にしようと思うのに、
丘でリズムが勝手に威張って、
そんなことは放ってしまえという。

タイトルに詩人のねらいがあり
それが「反意」や「「逆説」であることがわかっているのですから
そう読めばよいのですが
この詩の本文(中身)もまた「小難しい」と言わざるをえません。

マイナーです。
あらかじめ読者を限定してしまいかねないのは
「処女詩集序」と同じです。

これもダダではないけれど
ダダを抜けようとして
その心と尻尾(しっぽ)を隠しもしない。
七五を基調にして破調を随所に
「しゃべり言葉」でゆるーく歌っている
そんな感じです。

中に

いろいろ言いたいことがある
神様からの言伝(ことづて)もある
――とあるのが「本意」らしいのですが
この「しゃべり言葉」にせっかくの「神」は埋れています。

そのうえ
「神様からの言伝」は
「リズム」に邪魔されているのです……

「リズムの詩人」などと呼ばれることもある詩人が
リズムに対して他人行儀なのは
「神」と「リズム」を比較するわけにはいかないからでしょうか。

「宣言」にしては
パワー不足は否めませんが
しかし……。

「ゆるい歌いぶり」の裏に
詩人の「嘆き」もほの見えます。

今回はここまで。

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