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2013年9月16日 (月)

ひとくちメモ「白痴群」前後・愛の詩・1「浮浪歌」

(前回からつづく)

「第1詩集用清書原稿群」とされる詩13篇
「夜寒の都会」
「春と恋人」
「屠殺所」
「冬の日」
「聖浄白眼」
「詩人の嘆き」
「処女詩集序」
「秋の夜」
「浮浪」
「深夜の思ひ」
「春」
「春の雨」
「夏の夜(暗い空)」
――にひと通り目を通しました。

幻となった「第1詩集」ですが
「第1詩集用清書原稿群」は
諸井三郎、関口隆克の証言をもとに
原稿用紙を分類・検証するという方法で「推定」したものです。

ほかに彫刻家・高田博厚の証言から
「愛の詩」と呼ばれている一群の詩もあります。
「ノート1924」の空きページに書かれた7篇の詩です。
これが高田証言の「愛の詩」と想定されたのですが
この証言は実証することができないまま
「仮説」にとどまっています。

「だれにも見せない」ということは
「泰子にも見せない」けれども
「高田さんには見てほしいんだ」と言って
詩人が高田博厚に見せた詩ということになっています。

7篇の詩は、
「浮浪歌」
「涙語」
「無題(ああ雲はさかしらに笑い)
(秋の日を歩み疲れて)
(かつては私も)
「秋の日」
「無題(緋のいろは心になごみ)」
――というラインアップです。

「愛の詩」は
「第1詩集用清書原稿群」には入れられなかったけれど
「第1詩集」のための詩篇である可能性を否定できない詩群です。

これらを合計してもようやく20篇ですから
詩集としてはまだ数が足りていませんが
この詩群もここで読んでいきましょう。

「第1詩集用清書原稿群」と
「愛の詩」は
同じ頃に制作されています。

「浮浪歌」は
昭和2―3年制作(推定)。

類似の詩に昭和2年制作(推定)の「浮浪」があり
これと比べると
ダダの痕跡が残る「浮浪歌」のほうが
早く制作されたことが推定できますから
初稿は昭和2年以前の制作の可能性もあります。

浮浪歌
 
暗い山合、
簡単なことです、
つまり急いで帰れば
これから1時間というものの後には
すきやきやって湯にはいり
赤ン坊にはよだれかけ
それから床にはいれるのです

川は罪ないおはじき少女
なんのことかを知ってるが
こちらのつもりを知らないものとおんなじことに
後を見(み)後を見かえりゆく
アストラカンの肩掛に
口角の出た叔父につれられ
そんなにいってはいけませんいけません

あんなに空は額なもの
あなたははるかに葱(ねぎ)なもの
薄暗はやがて中枢なもの

それではずるいあきらめか
天才様のいうとおり

崖が声出す声を出す。
おもえば真面目不真面目の
けじめ分たぬわれながら
こんなに暖い土色の
代証人の背(せな)の色

それ仕合せぞ偶然の、
されば最後に必然の
愛を受けたる御身(おみ)なるぞ
さっさと受けて、わすれっしゃい、
この時ばかりは例外と
あんまり堅固な世間様
私は不思議でございます
そんなに商売というものは
それはそういうもんですのが。

朝鮮料理屋がございます
目契ばかりで夜更まで
虹や夕陽のつもりでて、

あらゆる反動は傍径に入り
そこで英雄になれるもの

これはまた「遊び」に満ちた詩というべきでしょうか!
テースト(食感)といいトーン(音感)といい
新しい世界に一歩踏み入れた感じです。

しゃべり言葉で
「です」を使って丁寧にはじまってから
調子が出てきたところで
流麗快活な七五調に転じ
なんだか意味不明ながら
テンポとリズムに心地よさを感じていると
字余り字足らずの破調で終わってしまいます。

小難しいっていうのではなく
いったいこの詩はなんなのかって
身を乗り出させる何かがありますが
何かとは何でしょうか。

(こんなに夜更けになっちゃって)
暗い山間の道クライヤマアイノミチ
簡単なことですカンタンナコトデス
つまり急いで帰ればツマリイソイデカエレバ
これから1時間後にはコレカライチジカンゴニハ
すき焼きを囲んで風呂に入りスキヤキヤッテユニハイリ
赤ん坊にはよだれかけアカンボウニハヨダレカケ
それからあったか布団にも入れますソレカラトコニハイレルノデス

(次第次第にリズムが出てきて)
川は罪ないおはじき少女カワワツミナイオハジキオトメ
なんのことかを知ってるがナンノコトカヲシッテルガ
こちらの思いを知らないものと同じことコチラノツモリヲシラナイモノトオンナジコトニ
後ろを振り返りながら帰っていくのさウシロヲミウシロヲミカエリユク
アストラカンのショールしてアストラカンノカタカケニ
口角の突き出た叔父に連れられてコウカクノデタオジニツレラレ
そんなこといってはいけませんいけませんソンナニイッテハイケマセンイケマセン

(ここからは七五も流麗に)
あんな空には額なものアンナソラニハガクナモノ
あなたははるかに葱なものアナタハハルカニネギナモノ
薄暗いのはやがて中枢なものウスグライハヤガテチュウスウナモノ

それではずるいあきらめかソレデハズルイアキラメカ
天才様の言うとおりテンサイサマノイウトオリ

崖が声出す声を出すガケガコエダスコエヲダス
思えばまじめ不まじめのオモエバマジメフマジメノ
けじめ分たぬ我ながらケジメワカタヌワレナガラ
こんなにぬくい土色のコンナニヌクイツチイロノ
代証人の背中の色ダイショウニンノセナノイロ

それは幸せぞ偶然のソレハシアワセゾグウゼンノ
されば最後に必然のサレバサイゴニヒツゼンノ
愛を受けたる御身なるぞアイヲウケタルオミナルゾ
さっさと受けて、忘れっしゃいサッサトウケテ、ワスレッシャイ
この時ばかりは例外とコノトキバカリハレイガイト
あんまり堅固な世間様アンマリケンゴナセケンサマ
私は不思議で御座いますワタシハフシギデゴザイマス
そんなに商売というものはソンナニショウバイトイウモノハ
それはそういうもんですのがソレハソウイウモンデスノガ

朝鮮料理屋がございますチョウセンリョウリヤガゴザイマス
目契ばかりで夜更けまでモッケイバカリデヨフケマデ
虹や夕陽のつもりでてニジヤユウヒノツモリデテ 

(ここでまた字余り字足らず破調もOK)
あらゆる反動は傍径に入りアラユルハンドウハボウケイニイリ
そこで英雄になれるものソコデヒーローニナレルモノ

浮浪感みたいなものが伝わってくることは確かです。

では、どこを浮浪していたのかといえば
コンクリートジャングル!?

ダダイストが大砲だのに
女が電柱にもたれて泣いていました

――というダダの詩があって
中に

白状します――
だけど余りに多面体のダダイストは
言葉が一面的なのでだから女に警戒されます

――という一節がありましたが
ふっとそれを思い出させました。

まことに中也の詩は多面体です。

今回はここまで。

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