ひとくちメモ「白痴群」前後・愛の詩・3「無題(ああ雲はさかしらに笑い)」
(前回からつづく)
「無題(ああ雲はさかしらに笑い)」は
なんとも「つき合いにくい」詩です。
ダダが中途半端に現われて
余計に付き合いにくくしているような詩です。
◇
文語五七調で格調を維持していた詩が
最後になって
「芥箱(ごみばこ)の蓋」でぶっちぎれ
意味不明の闇に墜落していきます。
この作り方自体がダダですが
文語とダダのミスマッチを狙って
成功していません。
何よりも
通じないのですから。
捨てきれないのか
捨てようとする意志がないのか
ダダは終生詩人から離れていきませんが
この詩はダダから抜け出ようとしていた時期の作品ですから
残っても仕方ありませんが。
「むなしさ」
「朝の歌」
「臨終」
――を歌い終えた詩人の
昭和2―3年(推定)の作品です。
◇
無 題
ああ雲はさかしらに笑い
さかしらに笑い
この農夫 愚かなること
小石々々
エゴイストなり
この農夫 ためいきつくこと
しかすがに 結局のとこ
この空は 胸なる空は
農夫にも 遠き家にも
誠意あり
誠意あるとよ
すぎし日や胸のつかれや
びろうどの少女みずもがな
腕をあげ 握りたるもの
放すとよ 地平のうらに
心籠め このこと果し
あなたより 白き虹より
道を選び道を選びて
それからよ芥箱(ごみばこ)の蓋
◇
雲があり
農夫がいる。
――
そして少女もいる。
となれば
おおよそ見当はついてきそうですが
では詩人はどこにいるでしょうか?
雲が詩人でしょうか?
農夫が詩人でしょうか?
それともほかに詩人はいるでしょうか?
◇
第3連にヒントが詰まっています。
「すぎし日」「胸のつかれ」
「びろうどの少女」「みずもがな」
そして
「腕をあげ 握りたるもの
放すとよ 地平のうらに」
――の2行。
これをどう読むか。
とくに
「腕をあげ 握りたるもの 放す」の主語は何か。
主語は詩人か?
◇
「みずもがな」は「見ずもがな」ですから
「見たくなかった」という意味で
「会わなければよかった」ということになるのなら
泰子との出会いを示します。
それで「腕をあげ握っているものを放す」のは
泰子か詩人か、どちらかになります。
◇
どう読んでも
全4連が詩人の「内面」のようです。
「腕をあげ握っているものを放す」のは
きっと詩人でしょう。
心を込めてそのことを実行し
自分としては間違いもなく歩んできたものですが
それからでした!
芥箱(ごみばこ)の蓋!
蓋を開けたのかわかりませんが
目の前にゴミ箱があったのです。
◇
ダダイスム
文語五七調
選ばれた言葉は平明。
しかし、わかりやすいようでわかりにくい
鮮明なイメージが結ばれませんが
なんとか読むことはできそうです。
雲と農夫とビロードの少女の物語
――と読めれば
詩はさらに近づいてくるかもしれません。
◇
今回はここまで。
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