ひとくちメモ「白痴群」前後・幻の詩集・11「秋の夜」
(前回からつづく)
「秋の夜」も
「第1詩集用清書原稿群」の一つで
昭和3年秋の制作(推定)とされています。
この原稿群の中では
もっとも新しい制作とされている詩です。
◇
秋の夜
夜霧(よぎり)が深く
冬が来るとみえる。
森が黒く
空を恨む。
外燈の下(もと)に来かかれば
なにか生活めいた思いをさせられ、
暗闇にさしかかれば、
死んだ娘達の歌声を聞く。
夜霧が深く
冬が来るとみえる。
森が黒く
空を恨む。
深い草叢(くさむら)に蟲(むし)が鳴いて、
深い草叢を霧が包む。
近くの原が疲れて眠り、
遠くの竝木(なみき)が疑深い。
◇
昭和3年は
前年に河上徹太郎を知ったのを皮切りに
「白痴群」のメンバーのすべてを
次々に知った年です。
昭和2年末から
河上徹太郎を介して音楽集団「スルヤ」との交流がはじまり
諸井三郎や内海誓一郎を知って
昭和3年3月には
大岡昇平を小林秀雄を通じて知り
大岡宅で古谷綱武を知り
5月には
村井康男宅で阿部六郎を
大岡昇平を通じて富永次郎を
9月には
安原喜弘を大岡昇平を通じて知ります。
まさしく「白痴群」前夜でした。
◇
5月には
「スルヤ」発表会で「臨終」「朝の歌」が初演されました。
同じ月に、父・謙助が死去。
また同じ月に、小林秀雄は長谷川泰子と別れました。
◇
1月に
「幼かりし日」を書き
4月に
「Me Voilá」
12月に
「女よ」が書かれました。
◇
そして9月には
豊多摩郡下高井戸(現東京都杉並区)に転居
ここで関口隆克、石田五郎と共同生活をはじめました。
武蔵野の一角を占める
昭和初期のこのあたりは
現在では想像を超えた
田園風景が広がっていました。
中原中也は
しばしばその自然をモチーフにして
詩を歌いました。
「秋の夜」もその一つです。
◇
森が黒く/空を恨む。
暗闇にさしかかれば、/死んだ娘達の歌声を聞く。
近くの原が疲れて眠り、/遠くの竝木(なみき)が疑深い。
――といった表現が地に着いてきました。
◇
今回はここまで。
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