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2013年10月27日 (日)

ひとくちメモ「白痴群」前後・「片恋」の詩16「妹よ」その2

(前回からつづく)

恋の相手に
兄が妹を思う愛情が混ざっていて
恋人への愛情と妹への愛情との境界など見えないので
はっきり区別できないというようなことはありますし
二つの気持ちがかぶさっている領域があるかもしれないし……

恋人に「妹よ」と
感嘆の気持ちを抱いて呼びかけても
おかしいことではありません。

元始、「いも」は
「妻」であり「恋人」であり「姉妹」でした。

恋も色々な貌(かお)を持ちます。
色々な形があって当たり前です。

妹 よ

夜、うつくしい魂は涕(な)いて、
  ――かの女こそ正当(あたりき)なのに――
夜、うつくしい魂は涕いて、
  もう死んだっていいよう……というのであった。

湿った野原の黒い土、短い草の上を
  夜風は吹いて、 
死んだっていいよう、死んだっていいよう、と、
  うつくしい魂は涕くのであった。

夜、み空はたかく、吹く風はこまやかに
  ――祈るよりほか、わたくしに、すべはなかった……

そもそもこの詩には、

湿った野原の黒い土
短い草
夜風が吹いている

――という「舞台装置(背景)」が歌われているだけです。

ほかには、
「死んだっていいよう」と泣く女性らしき人
わたくし

――だけが現われますが
この女性は
ここにいるのかが判然とはしないで
風の中から声が聞えてきます。

やがて、ここに女性の存在はなく
風そのものの声のようなことがわかってきます。

いつかそう言うのを聞いたことがあるか
いまそう言うのが聞えているのか
女性の姿はなく
声だけが風の中から聞えているのです。

風が声になっているのです。

どのような理由があって
「死んでもいい」「よう」というのか。
なんの手掛かりはありません。

「よう」という「終助詞」だけが
女性の正体の片鱗を見せます。

「う」があることによって
幼児(年下)が使った言葉であることがわかります。

「妹よ」でなければならなかった
タイトルの由来がここにあります。

「妹」のような女性
「妹」のような恋人
――というほどの存在を想像するだけが
この詩を味わうのに必要であり
それで十分です。

今回はここまで。

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