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2013年11月 3日 (日)

「生活者」から「山羊の歌・初期詩篇」へ・「春の夜」

(前回からつづく)

「月」につづいて
「山羊の歌」中の超・難解詩を読みましょう。

春の夜
 
燻銀(いぶしぎん)なる窓枠の中になごやかに
  一枝の花、桃色の花。

月光うけて失神し
  庭の土面(つちも)は附黒子(つけぼくろ)。

ああこともなしこともなし
  樹々よはにかみ立ちまわれ。

このすずろなる物の音(ね)に
  希望はあらず、さてはまた、懺悔(ざんげ)もあらず。

山虔(やまつつま)しき木工(こだくみ)のみ、
  夢の裡(うち)なる隊商のその足竝(あしなみ)もほのみゆれ。

窓の中(うち)にはさわやかの、おぼろかの
  砂の色せる絹衣(きぬごろも)。

かびろき胸のピアノ鳴り
  祖先はあらず、親も消(け)ぬ。

埋(うず)みし犬の何処(いずく)にか、
  蕃紅花色(さふらんいろ)に湧きいずる
      春の夜や。

一つひとつの行をていねい読んで
一つの連を読み終えたら
次の連の行へと進みまた次の行へ
そして、その連を読み終えると次の連へ

行から行へ、連から連へ
イメージをつなぎ合わせようとしても
つながらない時があり
こういう時に詩は難解なものになります。

「月」のようには整然としていない
「春の夜」が難解なのは
行と行、連と連が連続していないと受け取られて
「物語」を読み取れなかったり
詩を歌っている視点の移動が把握できなかったり
詩自体がピカソの絵のように
複数の視点で描(書)かれていると見られたりするからです。

その上
一つひとつの詩行が
なぜそこに書かれたか
理由がつかみにくいものがあったり
書かれたことの意味がつかみにくいものであったりもするから
全体をとらえにくいからです。

第1連第1行の「窓枠」と
第6連第1行の「窓」は
同じ窓なのか、とか、

第2連の「失神し」の主体(主語)は何か、
「失神」はどのようなことを喩(たと)えているか、とか

第3連の
樹々(きぎ)よはにかみ立ちまわれ。
――の意味は何か、とか、

第4連第1行の
「このすずろなる物の音に」の
「この」とは何を指しているのか、とか、
「すずろなる物の音」とは何か、
第7連の「ピアノ」のことか、とか、

第5連の

山虔(やまつつま)しき木工のみ、
  夢の裡(うち)なる隊商(たいしょう)のその足竝(あしなみ)もほのみゆれ。

――は、丸ごと意味が通じない、
なぜ突如、木工や隊商が登場するのか、とか、

第7連の
祖先や親とは、誰のことか、とか、

……

モヤモヤしたものが残ります。

しかし、難解な詩行はあるにしても
難解な語句はないのが
「春の夜」の特徴といえば特徴です。

冒頭連の

燻銀(いぶしぎん)なる窓枠の中になごやかに
  一枝(ひとえだ)の花、桃色の花。

――は、
銀フレームの窓枠の中に「なごやかに」
1本の花(=女性)があり、
桃色の衣裳を着ている、というような「描写」でしょう。

「描写」といっても
写実ではなく
「暗喩(メタファー)」や「象徴化(シンボライゼーション)」などの技を通していますから
情景をイメージするのに少し手間取りますが
この詩のセッティングはおおよそ把握できます。

女性がなごやかな状態で窓の中に見える
「春の夜」の情景の歌い出しです。

ゆらゆらする感じや
クラクラする感覚がありますが
詩のはじまりはすんなりと
詩の中へ入り込んでいけます。

今回はここまで。

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