「生活者」から「山羊の歌・初期詩篇」へ・序の2
(前回からつづく)
「中原中也の手紙」の著者、安原喜弘は
この様にして昭和4年の夏は彼との放浪の中にあわただしく、且又救いようのない魂の倦怠の中に過ぎ去った。この頃の彼は既に「初期詩篇」のいくつかと「少年時」に出て来る苛烈な心象風景を歌い終っていた。
――と記しています。
◇
安原を詩人が知ったのは
昭和3年秋ということで
高田博厚を詩人が知ったのは
昭和4年7月ですから
安原がいう「放浪の中にあわただしく」「救いようのない魂の倦怠の中に過ぎ去った」「夏」に
高田博厚は現われたということになります。
高田は1900年(明治33年)8月生まれですから
中也より7歳も上だったせいか
何かと「たより」になる存在だったし
初対面した頃にはフランス行きの計画が進んでいたはずですから
中也は高田の話を聞きたかったに違いありません。
それで、7月には
高田のアトリエのある中高井戸へ引っ越し
頻繁に高田を訪問することになります。
◇
「生活者」への寄稿は
この年、昭和4年発行の9月号、10月号ですから
面識を得てすぐのことであることがわかります。
◇
安原喜弘は昭和4年の夏を振り返って
中也がすでに「初期詩篇」のいくつかと「少年時」の詩を歌い終わっていたというのですから
「朝の歌」や「臨終」にはじまる
「秋の夜空」「宿酔」などの「初期詩篇」や
大岡昇平が「片恋」で取りあげた「少年時」などの詩篇を
詩人から直(じか)に読ませてもらっていたのでしょう。
「初期詩篇」には
「月」や「春の夜」「凄じき黄昏」など
古典や歴史をモチーフにして
漢語を多用し難解な詩の一群(これを「高踏的」というそうです。)
「ためいき」もこの系列に入れてもおかしくありません
「サーカス」や「秋の夜空」「宿酔」など
幻想的でファンタジーのある詩群
「春の日の夕暮」を含めたダダ、シュールの系譜
「朝の歌」など自他ともに「完成度の高い」と認め・認められた詩
失われた時、喪失をテーマにした「黄昏」などへも繋がる
「臨終」「秋の一日」「港市の秋」などの
「横浜もの」と呼ばれる詩
「都会の夏の夜」や「冬の雨の夜」など
都会(の風景)を歌った詩篇
「深夜の思い」は
「泰子」の影が現われる唯一の例
「少年時」「みちこ」「秋」に繋がる布石です
「帰郷」「悲しき朝」など
故郷・山口を題材にした詩群
……などと
綺羅星(きらぼし)のように
個性的な詩が色とりどりにかがやいています。
◇
「初期」の作品だから
未熟であるとか
未完成であるとかが全くなく
珠玉の名品が犇(ひしめ)いているのは
類例をみません。
まるで宝島です。
◇
「生活者」に載せた13の詩篇と
「初期詩篇」22篇の関係を見ると、
春の日の夕暮
月●
サーカス●
春の夜●
朝の歌●
臨終
都会の夏の夜●
秋の一日
黄昏●
深夜の思い
冬の雨の夜
凄じき黄昏
逝く夏の歌●
悲しき朝●
夏の日の歌
夕照
港市の秋●
ためいき
春の思い出●
秋の夜空●
宿酔
――となります。
●が「生活者」発表作品です。
「夏の夜」と「春」は
「在りし日の歌」に配置されました。
◇
今回はここまで。
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