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2013年12月10日 (火)

「生活者」から「山羊の歌・初期詩篇」へ・「春の思い出」その2

(前回からつづく)

「春の思い出」第4連は
れんげ田で遊び呆(ほお)けた少年が
陽の落ちないうちに家に帰り着こうと走り
たどり着いた家の中が夢のような「幸福」につつまれていて
眩暈(めまい)を覚える……

……その次の瞬間、
突然、舞踏会の大光量の世界へ投げ出されて
スカートが揺れる世界を歌います。

春の思い出

摘み溜(た)めしれんげの華を
  夕餉(ゆうげ)に帰る時刻となれば
立迷う春の暮靄(ぼあい)の
    土の上(へ)に叩きつけ

いまひとたびは未練で眺め
  さりげなく手を拍きつつ
路の上(へ)を走りてくれば
    (暮れのこる空よ!)

わが家(や)へと入りてみれば
  なごやかにうちまじりつつ
秋の日の夕陽の丘か炊煙(すいえん)か
    われを暈(くる)めかすもののあり

      古き代(よ)の富みし館(やかた)の
          カドリール ゆらゆるスカーツ
          カドリール ゆらゆるスカーツ
      何時(いつ)の日か絶(た)えんとはする カドリール!

「字下げ」で歌われるのは
ほかの例と同じく
詩世界をもう一つの眼差しで歌う
「地(じ)」の詩人を登場させるという「詩法」によりますが。

もう一つに
それまで流れていた詩世界をよりいっそう鮮明にする
「舞台効果」のようなものを狙ったものです。

最終連で見せるこの「展開」は
起承転結に沿うよりも
「起承転転」に近く
第3連の強調・拡大といった趣(おもむき)を呈しています。

あるいは「序破急」の急を
第3連と最終連で展開している形です。

この形をもつ
「夜の空」を舞台にしていてファンタジックな詩が
揃いました。

「サーカス」は
暗闇に浮き上がったサーカス小屋を歌いました。

「秋の夜空」は全篇がファンタジーです。
下界から上天界をのぞき上げる「私」を歌いました。

「春の思い出」の最終連も
少年の眼差しはいつしか
「遠いもの」を見ている詩人の眼差しになりファンタジックです。

見ているものは
やがて視界から消えてなくなるというのも同じです。

「春の思い出」では
幸福の絶頂のような時間の中で
それがなくなってしまうことを少年は恐れました。
時間は止まってくれませんでした。

少年の時に抱いたこの喪失のおそれは
これを歌っている現在の詩人には
すでに失われた時です。

詩(人)はそれを振り返っているのです。
「思い出」を歌っているのです。

「思い出」を歌った詩を
詩人は幾つも残すことになります。
「春の思い出」はその初期のもので
原型のような作品です。

今回はここまで。

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